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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#50『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#50『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#50『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

2020.06.11

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。多少のネタバレはご容赦ください。
ゆーても今回ご紹介する映画の原作は、学校図書館に必ず置いてある不朽の名作なので、大半の方がストーリーはご存知なのでは。
新コロ助のせいで待たされましたが、ガーウィグの新しい演出による『若草物語』が全国340館の映画館で上映されることをまずは寿ぎたい。

Text_Kyoko Endo

映画にこめられたグレタ・ガーウィグのメッセージとは。

初監督作の『レディ・バード』ですでにアカデミー賞監督賞と脚本賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグは文化系女子の星。本作でもアカデミー賞脚色賞にノミネートされました。ノア・バームバックの『フランシス・ハ』やマイク・ミルズの『20センチュリー・ウーマン』など俳優としても活躍。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(以下『若草物語』)は、そんなガーウィグの監督・脚本作ということで製作発表段階から期待を集めてきましたが、ガーウィグ自身も原作への思い入れを強く語っています。

たとえばアメリカ国営ラジオ局のインタビューでは「いつごろから読んでいたのか、ジョー・マーチを知らなかったころを思い出せない」とかなり幼いころから読んでいて人格形成に影響を受けたと話しています。ガーウィグのように感じていた人は多いようで、シアーシャ・ローナンはガーウィグに「私にジョーをやらせてほしい」ではなく「私がジョーをやるから」と連絡してきたらしい。

だから内容はかなり原作に忠実です。テーマは、ずばり“女性の幸せと結婚とお金/仕事”。主人公のジョーは四姉妹の次女で、作家として自活するのが夢です。対立するのが結婚して金持ちになりたい末っ子のエイミー。しかし猛禽エイミーも本当に好きな相手と結婚して幸せになりたいと思っています。好きになってしまった相手が金持ちではなかった長女のメグと、病弱で天使のような三女のベスがいて、もともとジョーとエイミーはベスを取り合っていて、年上のメグとジョーだけが社交界デビューしています。献身的な母親が彼女たちを守っていて、父親は北軍の従軍牧師として戦争に行っています。

一家は娘たちを教育できる程度には豊かですが、遊ばせておく余裕はなく、ジョーは金持ちの伯母のための朗読のバイトをしています。よーしゃなく厳しい伯母で、家族のために金持ちと結婚しろと言う。隣家は名家で金持ちでもあるローレンス家。そこのボンボンがティモシー・シャラメ。キャスティング絶妙。ローレンス家や伯母たちが属するハイソサエティがあり、そこに組み込まれるか、組み込まれたくないとして経済的にどう自活するか、両親が大事にする精神的豊かさをどうやって自分の中で守り育てていくかという問題に四姉妹は直面するのです。

女性の参政権すらない南北戦争当時のアメリカでは、女性が階級を駆け上がってリッチになろうとしたら金持ちと結婚するのが近道。親たちも上流階級の男たちが気にいるような娘を育て上げようと躍起になっていた。でもそれって娘の個性や意思や権利を無視することだったし、色欲に訴えて夫を得たとて年老いて色香が衰えたら若い女に走られてしまったりしてずっと幸せとは言い難い。金目当ての女性にばかり寄って来られる男性側からしても内面を見てもらえず人格を無視されてしまっていた。原作者のルイザ・メイ・オルコットは早くも19世紀にそうした風潮にはっきりNOと言っていたわけです。

ガーウィグは最新の注意を払って原作通りに作品を仕上げかけながら、終盤で物語を大きくドリフトさせます。オルコットの分身としてのジョーと編集者との打ち合わせを描いて舞台裏を見せるのです。編集者はジョー/オルコットに、ヒロインとしてのジョーが結婚しなければハッピーエンドにならないと言います。ジョーは仕事をやめて結婚すべきで、オールドミスなんか幸せであるわけがないと。それで実際オルコットは原作のジョーにそうさせたわけですが、オルコット本人は生涯独身でした。

21世紀の#Metooムーブメント以降に劇場に降臨するジョーに19世紀の編集者の指示に従って作家業をやめさせるわけにはいきません。それでガーウィグは、ジョーとベア教授とのロマンスはハリウッド的キラキラ感で原作以上に盛り上げておいて、ジョー/オルコットが満足そうに製本したての自分の本を手に取るところも描きました。オルコットの人生の正しさの代弁でもあり、現パートナーのノア・バームバックと結婚せず、でもバームバックとの子どもを出産したガーウィグらしいエンディングです。

もちろん結婚してもいいし、夫育てと子育てに自分を捧げてもいい。本人が満ち足りて幸せならそれでいいのです。そのメッセージもまたしっかり映像になっています。姉妹たちの自己実現が、成長後の衣装で表現されているのです。これはアカデミー賞衣装デザイン賞を獲得したジャクリーン・デュランの素晴らしい仕事でもあるのですけど、それぞれの生活ぶりがわかる服を着つつ、全員がちゃんとかわいくておしゃれ――つまり幸せそうなんです。映画も実人生も、ただ豪華な衣装を着られればいいってもんじゃないんですよね。いつもジョーのように自由でいたいけどメグのようにいい子でいたりエイミーのような戦略家になる必要もある私たちにとって、最高の結末。自分の幸せは自分で選んでいい。この映画はそう教えてくれるのです。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

(2019/アメリカ/135分)

監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
6月12日(土)より全国ロードショー
公式サイト

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を観た人は、こっちも観て!

グレタ・ガーウィグとシアーシャ・ローナン特集のつもりで並べてみましたが、これがそのまんま、ちょっと不器用な女子の生き方特集になっちゃうんですね。どの作品を見ても元気になるし、仕事や勉強やるぞという気になります。

『レディ・バード』

A24製作、ガーウィグ監督・脚本&シアーシャ・ローナン主演の二人の出世作。ティモシー・シャラメも出ていてすでにガーウィグ組が出来上がってる感。レディ・バードの行動には笑っちゃうけど、私も若いころこうだった!と思う人も多いはず。

『フランシス・ハ』

ガーウィグが演じるフランシスの魅力はずっと色あせない。ノア・バームバック監督作品。バームバックとの共同脚本と主演で、ガーウィグがインディーズ映画界のitガールに。いまとなって見ればまるでレディ・バードの大学卒業後を描いたような内容。

『ブルックリン』

シアーシャ・ローナンがアメリカに移民してきたアイルランド人女性を演じる。ジョーやレディ・バードとは違ってシャイで古風で堅実。勉強するのがなんと簿記でそれで生活を成り立たせていく。これもまた女性が社会で成長していく物語。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。

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