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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#55『mid90s ミッドナインティーズ』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#55『mid90s ミッドナインティーズ』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#55『mid90s ミッドナインティーズ』

2020.08.26

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。
と言いつつ今回ご紹介する『mid90s ミッドナインティーズ』はなぜかプレスリリースが全然引き写されてないのです。
しかしこれが同世代の記者による監督インタビューで超宝の山。
もったいないことこの上ないので今回はその監督インタビューにあった情報を紹介しちゃいます。

Text_Kyoko Endo

名作mid90sへの誤解を早めに解いておきたい。

俳優ジョナ・ヒルの監督デビュー作ということでもA24製作ということでも話題だった『mid90s』。アメリカの現状を背景に少年の成長を描いた傑作です。が、なぜか日本では監督が否定している方向で説明しちゃっているメディアがちらほら…? なのでその誤解を解きつつ見どころを解説していきたいと思います。

『mid90s』は半自伝的映画ではないです。ジョナ・ヒル監督は「これは自伝ではなくて僕が書きたかった物語なんだ」とはっきりインタビューで言っている。彼自身はLA育ちで映画にも登場する裁判所でいつもスケートしていたと言ってますが、これはフィクションなんです。“現実の出来事に基づいた”映画だらけの昨今、オリジナル脚本の映画は貴重。なおかつジョナ・ヒルはキャストが決まった時点でさらに脚本を書き直したり、脚本があるにもかかわらずアドリブで演じさせた部分を採用したりしているから、どのシーンもリアルなんです。

で、これはスケートだけの映画でもないのです。少年が街に出て自由に見える年上の少年たちに憧れて仲間になり成長していく物語なのですが、監督は“nostalgia porno”や“skate porno”にはしないってルールを自分に課したというのですよね。スケートはカルチャーでありつつ少年たちを結びつける絆の象徴って感じ。スケートしない人も感動する作品だと強調しておきたいです。

ジョナ・ヒル監督は、前々回に紹介した『ブックスマート』主演のビーニー・フェルドスタインのお兄ちゃん。スパイク・ジョーンズと一緒に戯曲を書いていたとき、メインストーリーを話しているときは退屈そうなのに回想シーンでは生き生きしていると指摘され『mid90s』を撮ろうと思ったそうです。

この映画の魅力はまずキャスト。主役のスティーヴィーを演じたサニー・スリッチは、撮影当時11歳ですでにヨルゴス・ランティモス監督の『聖なる鹿殺しの伝説』に出演したキャリアがありました。初タバコで目が痛くなったり、ママにタバコがバレたらヤバい! と芳香剤を自分にスプレーしたりするシーンがめちゃかわいいが、母親に反発して叫ぶ演技なんて迫力です。

母親への反発というのも、この映画にもまたうっすらと虐待が描かれているからなんですよね。どうもお兄ちゃんが母親のパートナーに虐待を受けてきたらしい。弟に対して専制的な兄ですが『ツイステッド・メタル』で一緒に遊んで弟が生まれる前の話をしたりもする。複雑な役どころを演じるのはルーカス・ヘッジズ。お母さん役は「ファンタビ」のティナ役などでも活躍しているキャサリン・ウォーターストン。

スケーターのキャストは豪華の一言です。主人公のメンターともなるレイ役のナケル・スミス、ファックシット役のオラン・プレナット、フォース・グレード役のライダー・マクラフリンの3人が「イリーガル・シヴィライゼーション」に所属。ルーベン役のジオ・ガリシアもプロじゃないとはいえしっかり滑れているのですよね。しかもみんなすごい演技派。

彼らが演じる少年たちは居場所がなくて、パークやショップでなんとなく友だちになったんだろうなという感じ。レイが黒人、ルーベンがメキシコ系、フォース・グレードは白人ですが、それぞれに差別や虐待を受けていたり、貧困のただなかにいたりします。

黒人のレイにはなんとかして貧しい地区から抜け出してプロになるんだという夢がある一方、金持ちの親にフランスに連れて行かれたりしてるファックシットは進学へのプレッシャーで苦しんでいます。ほかの子より恵まれているように見えるファックシットも夢を追えないわけで、目標一直線のレイに対して、才能があるのに腐ってるのが不憫。リーダー格の2人がそんなふうに対立するので空気が荒んでスティーヴィーもルーベンと喧嘩したりしてしまう。そんな屈託を表情だけで演じているのが見事。

女子のパーティーで出会うエスティーを演じるのが『WAVES / ウェイヴス』でも印象的だったアレクサ・デミー。さらにはすっごいチョイ役でえっ、この人ですか! という人が出てるのでチェックしてください。悪ガキどもがしれっと立入禁止区域に入るので悪ガキ初心者のスティーヴィーがビビるシーンで、警備員として登場するのがコメディアンのジェロッド・カーマイケル。裁判所で話しかけてくるホームレスがラッパーのデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンです。デルは40歳すぎてスケートを始めたことが記事になったりしていましたね。

『WAVES』といえば忘れちゃいけないのが、この作品も音楽がトレント・レズナー&アッティカス・ロスです。「トレントは90年代のアイコンでもあるから(作品に)深みが出る」と言うジョナ・ヒルの狙いどおりオリジナル音楽がハマってます。さらに劇中曲はピクシーズやニルヴァーナ、バッドブレインズ、ミスフィッツ、ア・トライブ・コールド・クエスト、ウータンクラン、ハービー・ハンコック。特筆すべきは超絶いいシーンでかかるモリッシー。これは泣く。ジョナ・ヒルが低予算映画なんですけど…とモリ様に手紙を書いて許可をもらったそうで、これすっごい快挙なんです。モリッシーって気難しいので有名で、自分の伝記映画にさえ(というかだからこそか)一曲も使わせてあげていないのだ。

と、90年代音楽を浴びるように聴ける映画ではあるけれど、“nostalgia porno”にはしないとの誓い通り、これは90年代ネタを集めただけの映画でもないのです。ジョナ・ヒルが言うには「時代性はあんまり関係ないくらいに思っているんだ。これはヒューマンストーリーで、キッズが成長過程で何をすべきか、どんなに寂しいか、どんなふうに強がっているかという物語なんだ」。成長しきった人間にも刺さりますが、自分の居場所づくりに悩んでいるような人、つい最近まで悩んでいたような人に深く深く刺さるはずの作品。是非劇場でご覧ください。

『mid90s ミッドナインティーズ』

(2018/アメリカ/85分)

製作・監督・脚本:ジョナ・ヒル
出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス
配給:トランスフォーマー
9月4日(金)より新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント、グランドシネマサンシャインほか全国ロードショー
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公式サイト

『mid90s ミッドナインティーズ』を観た人は、こっちも観て!

保護された子供時代から大人になる途中、どうしても私たちは社会の暴力性や残酷性と出会ってしまう。けれど、そこからが勝負です。近日上映の作品といま上映中の作品の中から、少年少女が成長していく物語を集めました。

『行き止まりの世界に生まれて』

映画を撮りたいフォース・グレードの姿が、このドキュメンタリーを製作したビンの姿に重なる。これも9月4日公開の必見作。スケーターたちを追ったムービーがそのまま彼らの成長物語になっていて、ラストベルトの貧困やD Vが浮き彫りにされます。

『はちどり』

兄の暴力や両親の大喧嘩、日常的な困難を淡々とやり過ごす女子中学生のウニ。死なないと思っていた独裁者の死、壊れないと思っていた橋の崩落、そして尊敬する教師もまた…揺れ動く世界をまっすぐに見つめる少女の眼差しが瑞々しい珠玉作。上映中。

『ファヒム パリが見た奇跡』

チェスでは大人にも負けない天才少年ファヒムは、その能力の高さのために故国バングラデシュで命の危険に遭い、父親とフランスに亡命するが…チェスという同じ目標で助け合う少年たち。大人や社会の助力も少年の成長に不可欠と知らしめる名作。上映中。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。

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