GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#81『サポート・ザ・ガールズ』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今回ご紹介するのは『サポート・ザ・ガールズ』。
舞台はスポーツバーなんですが、接客業あるある、上司になった女子のお仕事あるあると言えそうなストーリー。
献身的に働くジェネラル・マネージャーと彼女のもとで働く女子たちのシスターフッドが主軸になっています。
2018年にオバマ大統領がフェイバリットに挙げていながら
日本では2020年に一日限りの公開があったのみ…今回やっと一般公開されるのも話題です。
Text_Kyoko Endo
上司になった女子のお仕事あるある。
物語はスポーツ・バー、ダブル・ワミーズの女性マネージャー、リサの慌ただしい朝から始まります。バイトの面接と、押し入った泥棒が通風口に詰まっている(!)のと、従業員が子どもをシッターに預けられなかった、スポーツバーなのにケーブルテレビが映らない…など、通常業務以外に対処しなければならない問題が次々起こります。それをてきぱきと片づけていく有能なリサ。演じるのはレジーナ・ホール。
リサはキッチンの見回りもしていてシェフの管理もしますが、ここは料理が主役ではないんですよね。わかりやすく言えばフーターズ的な店で、料理はバーガーとフライドポテトやチキンウイングなんかで、バスト強調+ショートパンツの“ワミーズ・ガールズ”が店のウリ。彼女たちのマネジメントがリサの主な(そして大変な)仕事なんです。
従業員の女子たちはみんなかわいく明るくて個性的。能天気女子メイシーを『コロンバス』やこちらも10月公開の『アフター・ヤン』のヘイリー・ルー・リチャードソンが演じていていい味出しています。ラッパー、ジャングルプッシーとしても活躍するシャイナ・マクヘイルもシングルマザー役を好演。
しかしなかには暴力彼氏を車で轢いちゃって保釈金が必要になったような子もいて、リサはその子の保釈金のために、女子みんなで客に洗車サービスをしてお金を集めようと計画しています。リサは従業員の母親のような存在なのです。セクハラ客が来たら「うちはそういうの一切許しませんので(zero tolerance policy)」ときっちり抗議して、客が謝らなければ店から出てもらっています。だから従業員の信頼も絶大。
しかしそんなリサの仕事ぶりを快く思っていない人がいます。ボンボンの二代目オーナーです。この人がマッチョなダメ上司の典型で、リサの有能さが理解できていない。女性蔑視的な先入観から、物事を正しく見られないのです。そればかりか、従業員たちの感情面を無視するようなルールを押しつけてきます。従業員の気持ちを思えばオーナーの方針には従えないけれど、仕事を失うわけにもいかない、ストレスが溜まる日々を一人耐えているリサ。
しかしオーナーとの対立がついに決定的になり、リサはオーナーにクビを言い渡されてしまいます。従業員たちはリサのためにストライキを画策する…というより、みんなで頑張ってきたからこそ、自然発生的に「もうやってらんねえ!」的反抗へ。
とにかく男は絶望的にわかっていない登場人物ばかり。気のいい男たちはいるのですが、無力。この映画の半分以上はリサの苦闘なんです。反抗シーンは一気に畳み掛ける感じで、さらにそのあと、希望とビターな現実との両方を予感させるオープンエンディングで、100%ハッピーエンドかといえば全然そうではない。でも、爽快感があって、元気になるような映画なんですよね。
じつは、リサにも問題はあります。他人の面倒を診すぎて自分のニーズがほったらかし。与えるべきでない相手にも与えてしまい、そのことを後悔する。母親的ということは支配的でもある。そんなリサがどのように変わっていくかもストーリーのポイントになっています。
結局、一人で頑張りすぎてしまって「この人が抜けたらこの組織は保たないだろうな」となるのは、わからずやオーナーへの教訓にはなるでしょうが、マネージャーの心身両面の健康を考えれば組織作りとしては失敗なんですよね。本来は自分が休んでも店が回って、誰かがいつ休んでも大丈夫になるようにしたほうが強い組織になります。自己犠牲なんてNO NO。リサの問題は上司になった女子が直面しがちな問題でもあるのです。
女子が出会いがちな仕事の問題を描いていますが、脚本が素晴らしく随所に笑えるシーンがあり、映画的に美しいシーンもあるテンポの良い作品。会社の仲間や、同じような仕事の悩みを抱えている友だちと見ておしゃべりしたりすると、この作品をより楽しめるかもしれませんよ。
『サポート・ザ・ガールズ』
(2018/アメリカ/93分)監督:アンドリュー・ブジャルスキー
出演:レジーナ・ホール、ヘイリー・ルー・リチャードソン、シャイナ・マクヘイル
配給:グッチーズ・フリースクール
©︎2018 Support The Girls, LLC All Rights Reserved.
10月7日(金)よりシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』にて公開
公式サイト
『サポート・ザ・ガールズ』だけじゃない! 今月のおすすめ映画。
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遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。
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