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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。 #81『サポート・ザ・ガールズ』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。  #81『サポート・ザ・ガールズ』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#81『サポート・ザ・ガールズ』

2022.09.30

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今回ご紹介するのは『サポート・ザ・ガールズ』。
舞台はスポーツバーなんですが、接客業あるある、上司になった女子のお仕事あるあると言えそうなストーリー。
献身的に働くジェネラル・マネージャーと彼女のもとで働く女子たちのシスターフッドが主軸になっています。
2018年にオバマ大統領がフェイバリットに挙げていながら
日本では2020年に一日限りの公開があったのみ…今回やっと一般公開されるのも話題です。

Text_Kyoko Endo

上司になった女子のお仕事あるある。

物語はスポーツ・バー、ダブル・ワミーズの女性マネージャー、リサの慌ただしい朝から始まります。バイトの面接と、押し入った泥棒が通風口に詰まっている(!)のと、従業員が子どもをシッターに預けられなかった、スポーツバーなのにケーブルテレビが映らない…など、通常業務以外に対処しなければならない問題が次々起こります。それをてきぱきと片づけていく有能なリサ。演じるのはレジーナ・ホール。

リサはキッチンの見回りもしていてシェフの管理もしますが、ここは料理が主役ではないんですよね。わかりやすく言えばフーターズ的な店で、料理はバーガーとフライドポテトやチキンウイングなんかで、バスト強調+ショートパンツの“ワミーズ・ガールズ”が店のウリ。彼女たちのマネジメントがリサの主な(そして大変な)仕事なんです。

従業員の女子たちはみんなかわいく明るくて個性的。能天気女子メイシーを『コロンバス』やこちらも10月公開の『アフター・ヤン』のヘイリー・ルー・リチャードソンが演じていていい味出しています。ラッパー、ジャングルプッシーとしても活躍するシャイナ・マクヘイルもシングルマザー役を好演。

しかしなかには暴力彼氏を車で轢いちゃって保釈金が必要になったような子もいて、リサはその子の保釈金のために、女子みんなで客に洗車サービスをしてお金を集めようと計画しています。リサは従業員の母親のような存在なのです。セクハラ客が来たら「うちはそういうの一切許しませんので(zero tolerance policy)」ときっちり抗議して、客が謝らなければ店から出てもらっています。だから従業員の信頼も絶大。

しかしそんなリサの仕事ぶりを快く思っていない人がいます。ボンボンの二代目オーナーです。この人がマッチョなダメ上司の典型で、リサの有能さが理解できていない。女性蔑視的な先入観から、物事を正しく見られないのです。そればかりか、従業員たちの感情面を無視するようなルールを押しつけてきます。従業員の気持ちを思えばオーナーの方針には従えないけれど、仕事を失うわけにもいかない、ストレスが溜まる日々を一人耐えているリサ。

しかしオーナーとの対立がついに決定的になり、リサはオーナーにクビを言い渡されてしまいます。従業員たちはリサのためにストライキを画策する…というより、みんなで頑張ってきたからこそ、自然発生的に「もうやってらんねえ!」的反抗へ。

とにかく男は絶望的にわかっていない登場人物ばかり。気のいい男たちはいるのですが、無力。この映画の半分以上はリサの苦闘なんです。反抗シーンは一気に畳み掛ける感じで、さらにそのあと、希望とビターな現実との両方を予感させるオープンエンディングで、100%ハッピーエンドかといえば全然そうではない。でも、爽快感があって、元気になるような映画なんですよね。

じつは、リサにも問題はあります。他人の面倒を診すぎて自分のニーズがほったらかし。与えるべきでない相手にも与えてしまい、そのことを後悔する。母親的ということは支配的でもある。そんなリサがどのように変わっていくかもストーリーのポイントになっています。

結局、一人で頑張りすぎてしまって「この人が抜けたらこの組織は保たないだろうな」となるのは、わからずやオーナーへの教訓にはなるでしょうが、マネージャーの心身両面の健康を考えれば組織作りとしては失敗なんですよね。本来は自分が休んでも店が回って、誰かがいつ休んでも大丈夫になるようにしたほうが強い組織になります。自己犠牲なんてNO NO。リサの問題は上司になった女子が直面しがちな問題でもあるのです。

女子が出会いがちな仕事の問題を描いていますが、脚本が素晴らしく随所に笑えるシーンがあり、映画的に美しいシーンもあるテンポの良い作品。会社の仲間や、同じような仕事の悩みを抱えている友だちと見ておしゃべりしたりすると、この作品をより楽しめるかもしれませんよ。

『サポート・ザ・ガールズ』

(2018/アメリカ/93分)

監督:アンドリュー・ブジャルスキー
出演:レジーナ・ホール、ヘイリー・ルー・リチャードソン、シャイナ・マクヘイル
配給:グッチーズ・フリースクール
©︎2018 Support The Girls, LLC All Rights Reserved.
10月7日(金)よりシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』にて公開
公式サイト

『サポート・ザ・ガールズ』だけじゃない! 今月のおすすめ映画。

ユーロスペースでのパゾリーニ特集と東京国際映画祭が重なるなどイベントもありつつ、今月は歯ごたえがある硬派ドキュメンタリー&文学的映画月間でもあります。

『重力の光』

以前GCCのインタビューにも登場してくれたアーティストUMMMI.こと石原海監督が撮ったのはホームレス支援活動をする教会と、そこに集まる人々――センスがいい人が人間の真実を撮ったらこんなに美しいドキュメンタリーに。地方公開後、東京凱旋公開予定あり。

『LAMB/ラム』

順位をつけられないお勧め。A24が北米配給権を獲得したというだけあって、アイスランド版遠野物語とでもいうべき異世界感とその世界への置いていかれ感がすごいホラー。タル・ベーラをメンターとする監督の作品で、ただホラーと括るにはもったいない詩的な作品です。公開中。

『バビ・ヤール』

かつてナチスに占領されユダヤ人虐殺が行われた地でもあったウクライナ。しかし最初の虐殺はドイツだけでなくソビエト政府によっても隠された…セルゲイ・ロズニツァ監督による驚くべきドキュメンタリー。ナチスの公開処刑に集まる人々――これこそが群衆では。公開中。

『LOVE LIFE』

メインストリームからは少し外れた人を登場人物に据えながら、それでいて人を愛することの本質をずばりと描いてしまう深田晃司監督の最新作。いつまでも続くはずだった幸福な日常をある事故で失い、そこから迷いつつ立ち直っていく女性の物語。公開中。

『ドライビング・バニー』

怒りを制御するのが難しいバニー。自分より弱いものには優しいが正義感も強くて周りの人とトラブルになりやすい。シングルマザーで仕事もなく妹の家に居候しているが、妹の夫の継娘への虐待を知ってしまい…女性&発達障害版『ダニエル・ブレイク』ともいうべき珠玉作。9月30日公開。

『響け!情熱のムリダンガム』

低位カーストの楽器職人の息子が、慣習を打ち破って楽器演奏家に挑戦! 歌もダンスもあるど真ん中のインド映画ですが、洋楽邦楽民族音楽問わず音楽好きな方には是非見ていただきたい素晴らしい作品。是非上質なサウンドシステムのある劇場で! 10月1日公開。

『渇きと偽り』

女性ミステリ作家による同タイトル人気作の映画化。連邦警察官アーロンは、家族を殺して自殺した旧友の葬儀に出るために20年ぶりに帰郷。旧友の両親に息子は無実ではないかと捜査を依頼され…ハードなストーリーだけど女子的に納得できる人物描写で見応えあり。公開中。

『日本原 牛と人の大地』

人々が牛を放牧させている入会地は自衛隊の演習場。そこで淡々と牛を放牧する酪農家、内藤さん一家を描いたドキュメンタリー。内藤さん一家や監督にほのぼのしつつ、農とは、軍隊とは、労働とは、正しい経済効率とは…などなど考えさせられるパンクな映画。公開中。

『暴力をめぐる対話』

新自由主義へのNOを労働者が突きつけたフランスの黄色いベスト運動。無抵抗のデモ参加者に警官が一方的に振るった暴力は正当? しかし「正当です」と答える警察関係者は目を逸らす…権力の暴力をロジカルに解き明かそうとする硬派なドキュメンタリー。公開中。

『雨を告げる漂流団地』

ネットフリックス+コロリドの、美術が美しすぎるアニメ。通っていたプールがなくなったり遊園地が閉園になったり、経済の不始末のとばっちりで風景が一気に変わることが当たり前になった現代の子ども(+子どもの心を持つ大人)にそれでも生きろと語りかける名作。配信&公開中。

『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』

またタイムループもの? しかし徹夜もなんのそののハードなお仕事あるあるとタイムループの相性がこんなに良いとは発見です。同じような仕事やって同じような愚痴言ってんなーということは確かに多い。広告&デザイン関係の方は身につまされる以上かも。10月14日公開。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。
出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。

Instagram @ cinema_with_kyoko
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