GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#87『ウーマン・トーキング 私たちの選択』、『Rodeo ロデオ』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今回ご紹介するのは『ウーマン・トーキング』と『Rodeo ロデオ』。
なんで2作?とお思いの方も多いと思いますが、
今回は特例。両方とも見ていただきたい優れた女性映画なんです。
どちらも魅力的な女子たちが主役の女性監督の傑作。カルト化する伝説の誕生だと思います。
Text_Kyoko Endo
いま女子が絶対見るべき映画。(男子も本当はね)
まず、アカデミー賞脚色賞受賞、作品賞にもノミネートされた『ウーマン・トーキング』。識字教育すら行わないなど女性差別がえげつない村で、女子全員が昏睡状態に陥らされ、その間にレイプされていたことが発覚。それまでも起きたら身体中傷だらけ、というような事件が何件もあったのに女性の妄想だと片づけられ、調査もされなかったのです。目を覚ました少女が警察に訴えたことから、さすがに犯人は逮捕され男たちは町に犯人の保釈に行く。男たちがいない間に「こんな村に住み続けられる?」と女性が集まって投票する、その議論が映画化されているのです。
彼女たちの選択肢は赦すか、残って戦うか、村を出るか――でも日本語字幕で“赦す”になっている選択肢は原語ではdo nothingと書かれていて、つまり何もしないということ。さすがにそこに投票する人はいなくて、現実的な選択肢は戦うか村を出るかになります。
村を出るのはとても合理的。私は正直言って、いまの日本でもこの戦い方はアリだと思っていまして、それもこの映画をお勧めする大きな理由です。戦って時間を無駄にしたり、相手を呪って自分のカルマを悪くすることはないのです。人権意識が低いくせにその自覚がない人のもとに居続けなくてもいいのです。男性中心的議会の決定で、自己決定権や就業の機会を奪われながら暮らし続けるのはなぜなんでしょう。生きる能力さえ身につけておけば、都会や海外、どこにでも逃げられるのです。逃げるのは自分の心や身体を守るため。逃げていいんです。
ショッキングな事件よりその後の話し合いを描く映画で、ただ登場人物がダラダラ喋るのではなく、観客が見飽きない工夫が施され、最後には壮大なエンディングを迎える傑作。受賞も納得の脚本です。原作小説を読んだフランシス・マクドーマンドがオプション権を獲得、ブラピが設立したプランBが製作したのも話題になりました。
もう1本の『Rodeo ロデオ』は反抗心のかたまりのような女子が主人公。『チタン』と『ワイルド・スピード』と『ガールフッド』を足せば…とプレスリリースにありましたが、私としてはこれは女子版『狂い咲きサンダーロード』でしょ!と言いたい。泣かせるのに爽快感あるラストまで興奮させられました。
バイクの窃盗の常習犯のジュリアは逃走中に手放しウィリーなどで公道を疾走するcross bitumenの集団に出会います。女が入ってきてんじゃねえという感じで邪険にされるジュリアでしたが、親切な男子もいてジュリアはウィリーを覚えます。しかしその矢先、警察の取り締まりがあってウィリーを教えてくれた男子が重傷を負ってしまいます。彼が亡くなり、そのままグループに入るジュリア。ジュリアはバイク窃盗チームのリーダー格になり…。
と『ウーマン・トーキング』と比べてだいぶ悪い子の話なのですが、監督は「女性のチンピラ役を創るのが夢」だったと語っているんですよね。確かに、不良集団の女子の位置づけって、悪い男の彼女とか麻薬漬けにされる被害者とか麻薬組織の女性ボスとか売春婦のお姉さんとかお袋さんとかおばちゃんとか、やたら類型化されていた。ちょっとジェームズ・ディーンにも似たジュリアは、いままで見たことない主人公像です。
映像がとにかくカッコよく、バイク集団も見もの。私はこの映画で初めてエクストリームモータースポーツcross bitumenを知りました。スケボーやパルクールなど財布を持った大人が近づいてクールだったストリートのカルチャーが囲い込まれるなか、若い子がどんどん新たなカルチャーを創り出しているのもイイ。そうした集団に入ったからとてジュリアが安全なわけではもちろんなく、盗みを成功させれば逆に離れていく者もいるし、女子だからと意地悪してくる奴や、それどころか暴力を振るって脅してくる輩もいるのです。そんななかボスの妻と築いていくシスターフッドも物語の要になっています。
静かだったり激しかったり、どちらの映画も反抗の美学を描いた傑作。反抗って悪いことなんじゃないの?と思ってるあなたは、アフリカ系アメリカ人がどうやって人権を獲得していったのかとかイギリスの女性がどうやって選挙権を得たのかとかをChatGPTあたりに聞いたほうがいいかもです。日本のジェンダー格差は116位。ミャンマーと比べたって10位も下で、タジキスタンやスリランカより下。いやなもんはいやだとハッキリ言わなければなんにも変わらないのです。まずは映画史上でも最高位にかっこいい女子主人公たちを見ておこうではありませんか。
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
(2022年/アメリカ)104分・パルコ ユニバーサル映画監督・脚本:サラ・ポーリー
出演:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー、ベン・ウィショー、フランシス・マクドーマンドほか
©2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.
6月2日(金)TOHOシネマズシャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開
公式サイト
『Rodeo ロデオ』
(2022/フランス/105分)監督・脚本:ローラ・キヴォロン
共同脚本:アントニア・ブルジ
出演:ジュリー・ルドリュー、アントニア・ブルジ
配給:リアリーライクフィルムズ+ムービー・アクト・プロジェクト
© 2022 CG Cinéma / ReallyLikeFilms
6月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷/UPLINK吉祥寺他にて全国縦断公開
公式サイト
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遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。
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