GIRL HOUYHNHNMGirls Just Want To Have Fun!
荒川リンジー / SNSストラテジスト、クリエイター
彼女のダンステリア 荒川リンジー  / SNSストラテジスト、クリエイター SNSとヘルシーに付き合って、アートする。

彼女のダンステリア
荒川リンジー / SNSストラテジスト、クリエイター
SNSとヘルシーに付き合って、アートする。

2020.12.11

“ガールとカルチャーがドッキング⁉︎”
これは私たちのアンセム、シンディ・ローパーの日本盤LPレコードの帯にあったキャッチコピーから。
一見むちゃくちゃに読み取れるけど、でもだんだん愛着が湧いてきました。
男子に負けず刺激的なクリエイションを提示する人たち。
編集部員が心からファンになったアーティストと向き合い、
彼女たちが何を思い、何のためにクリエイティブでいるのかについてしっかりと聞いてきました。

荒川リンジー、SNSストラテジスト、クリエイター。ハワイで生まれ育ち、大学進学のためサンフランシスコへ。メディアスタディを学び、シリコンバレーエリアで広告会社に務めた後、ニューヨークへ移住。アメリカのミレニアルズ向けのメディア『Refinery29』のインスタグラムエディターとして働く。現在は拠点を東京に移し、フリーランサーとしてデジタルメディアをベースに幅広く活躍中。アーティストとしても活動しており、自身で撮影したフィルム写真にポジティブな言葉や歌詞などを乗せたデジタルアートを個人のインスタグラムアカウントで発信している。

Instagram @blindsaay

▶︎▶︎彼女のライナーノーツはこちら

彼女がクリエイティブディレクションや戦略を主に担当した『Refinery29』のインスタグラムアカウント。
当時はフォロワーを「100万人まで増やして欲しい」と頼まれ、なんと翌年に目標到達! フォロワーを2倍にまで増加させた。

ーアーティストとしてのお話しを聞く前に、まずSNSストラテジストとは…? 日本ではまだ馴染みの少ない言葉だと思うので、ざっくりどんな仕事なのか教えてください。
インスタグラム、ツイッター、TikTokといったSNSプラットフォームに特化したマーケティング戦略を立てる仕事のこと! 例えばアカウントの認知を広げたり、フォロワーを増やしたり、SNS上でブランドを立ち上げたいという人がいたら、そのアカウントの戦略からクリエイティブディレクションまでを担います。
ーどういった経緯でこの仕事に進もうと思ったのですか?
まずアメリカのベイエリア(シリコンバレーとかがあるところ)の大学でメディアスタディを専攻してていたのだけど、場所柄ツイッター、フェイスブックやインスタグラムなど、ソーシャルメディア全般が流行り始めたテックブームのど真んなかだったの。だからどのインターンシップを探してもSNS関連のインターンばかりで、とりあえず軽い気持ちでやってみようかなって思い始めてみた! あとは純粋に、色々な種類あるSNSを通して人々が普段どんなコンテンツを見ているのかなとかに興味があったかな。
ーそこからどうやって『Refinery29』のインスタグラムエディターに?
最初はベイエリアの普通の広告会社で働いてて。でも当時はクライアントも全然ファッションやアートは関係なく、もう少しビジネスよりもクリエイティブな方面で仕事をしたいって悩んでた。そのときたまたまインスタグラム上で、その仕事の求人ポストを見つけ「これだ!」と思いたって応募したのがきっかけ!
ー「ビジネスよりもクリエイティブな方面で仕事をしたい」とのことですが、インスタグラムに対して、当時クリエイティブな可能性をなにか見越していましたか?
ツイッターは文字がメインで、インスタグラムは画像がメインで、そこはおもしろい点だなとは最初から目はつけていたかも。それに「Refinery29」はもともと革新的だったし、ビジュアル面で長ける媒体だったから、そこでのクリエイティブに携われるのはすごい可能性も広がると思ってた。

リンジーのオフィス兼、自室。よーく見るとデスクの上には… 社長が♡

「ゆっくりと、優しく自分のカラダを好きになること」

ーそんなアメリカのビッグメディアのインスタグラムアカウントに携わっていたリンジーですが、普段自分のアートを発信しているのもインスタグラムがメインですよね! そこになにか繋がりはありますか?
そうね、もともとアートのバックグラウンドもないし、“アートをやりたい”という意識があって始めたわけじゃないから、普段使っているインスタグラムをベースに発信するようになったのは自然な流れだったのかも。後は、ニューヨークに移住して『Refinery29』の仕事をし始めてから、クリエイティブな刺激をたくさん受けたというのもある!
ーそんな始まり方も、SNSストラテジストならではな感じがしておもしろいです!フィルム写真に言葉を載せて発信するといういまのスタイルはどうやって始まったんですか?
ある日、友達が持ってきていた水彩画を使って文字や絵を描いていたときに「いままで撮りためていたフィルム写真の上にこれを乗せたらどうか。」って思いついたのがきっかけ。それからしばらくポスカとスキャナーを駆使して作っていたけど、いまは全部iPad上で作業してる!

愛用のiPadと、フィルムカメラ!

ー“撮りためてたフィルム写真”はそれまでSNSには載せていたなかったの?
学生の頃からフィルムカメラで写真を撮るのが好きだったけど、美大に通っていたわけでもなくて、最初は載せるにはちょっぴり恥ずかしい気持ちがあったの! そのときはインターネットに載せることって、ある意味見せびらかすような感じがしてて、なんとなく現像したものを全部ベッドの下に溜めてた。
ーSNSストラテジストとして世間に発信するコンテンツを作る仕事をしてる反面、個人のアカウントでは秘めていたところがあったとは、意外です。
アート業界についても知り尽くしている人が周りにいっぱいいて、それと比べると自分の写真は未熟だなって思う時期があったの。それが大きな悩みだったし、それと同時に自分も自分自身と向き合ってもっと知らなきゃなって思ってるところもあった。
ー自分自身?
そもそも、生まれ育ったハワイから大学のためにベイエリアに引っ越した時に、初めて自分のアイデンティティみたいなものに対して疑問を持ち始めたときがあって。喋り方も文化もまるで違うから、自分も周りと同じようになりたいって思って、服装も喋り方も変えた。そのうち自分のアイデンティティを失っていったのかも。
ーカルチャーショックによってぶち当たるアイデンティティの壁ですね…。どうやって克服したのですか?
私の場合はニューヨークに移り住んだときにリセットできた。0からスタートできたの。それに、そのときニューヨークでは多様性が受け入れられはじめていた時期だったのもあって、自分もユニークでいていいんだなって思えた。とにかくニューヨークについてから、改めて自分がどんな人間なのか、自分のチャームポイントはなにかを考え始められた!
ー一度は失いかけてた自分自身をニューヨークで取り戻せたのですね!
あとは、自分にいろんなことを教えてくれる友達がいっぱいできたのも大きかったかな! 毎週ギャラリーへ行ったり、美術館へ行ったり、友達が増えるうちに視野も広がっていった。

「オフラインの生活にも満足できるように」

ーリンジーの作品のメッセージってどれもポジティブで心の支えになるものばかりですが、そういう経験を乗り越えてきたからこそのあの言葉だったのですね。
あれらは全部、いまの自分の感情とか考えを反映するような「日記」みたいなものだからね。あとはそのときの事実ネタや政治的なことだったりもするし、お気に入りの歌詞のときもあるけど。
ーベースになってる写真は、言葉に合わせて撮ることもあるんですか?
前は伝えたいテキストがあるから、こういう写真を撮ってみよう! と試みてやってみたこともあったけど、それだとちょっとつまらないし、意味もないと思って。いまはその瞬間撮りたい! って思ったものを撮るようにしている。
ーなんかシンガーソングライターの人が、作詞してメロディをつけるみたいに、リンジーの場合はメロディの代わりに写真をつけているって感じがして素敵ですね!
ありがとう! それはいままで言われたことないけど、自分の作品が表現されたなかでいちばん綺麗な例えかも!
ーインスタグラムでアートを発信するのがリンジーのスタイルだと思うのですが、なにかZINEや一枚の作品などフィジカルに残したいという思いもありますか?
知り合いやフォロワーの方に、インスタグラムの投稿だけじゃなくて手に取れるなにかが欲しいと言ってもらい、シルクプリントはやってた。今年はコロナだからやめたけど、そもそも印刷して、梱包して、送ってっていうプロセスは環境にもよくないなと思ってた。
ーなるほど! そう思うと、手元に残るアートも大事だけど、作品をデジタルに流動的にストックしていくというのはサスティナブルの面からも時代にあった新しいスタイルとしてアリなのですね!
そう! だからいまなにか作るとしたら、飽きたら捨てられるような無駄なものじゃなくて、自分も使えるようなものを作りたいとは思ってます。でもそれがなにかはまだわからない!
ーあと、アーティストの方がインスタグラムを使うときって、自分のアートを展示する場所としてだったり、ポートフォリオや作品集のような使い方が一般的だと思うんですが、 リンジーの場合はそこ載せることで一種のアートとして確立されているというか。ひとつの手法としてインスタグラムを使っているような… そんな印象です!
確かに! とくに意図があったわけじゃないけど、ひとつ思うことはいまの自分のインスタグラムをフォローしている人はアートを見たいからフォローしてくれているわけで、“イイネ!”をしてくれることにもすごい感謝しているの。また自分のアートを好きな人がいるってこともすごい嬉しいし。ある意味そういう人たちがインスタにいてくれているから続けられているし、それ故インスタグラムが一番いい媒体なんじゃないかなっていうのは思ってる。
ーSNSストラテジストとして働いていたり、個人でも作品をポストしているうちに、インスタグラムは自分にとってどういう存在になりましたか?
これはかなり複雑なもの! SNSを通していろんなことを学べたり、新しい人と出会えたり、友達とコミュニケーションを取れたり、いろんな発見もあるしいい点はたくさんあるけれど、それと同時に自分を人と比べる原因を作りやすい場所でもあると思う。SNSを通してユーザーは自分の成功とかいい面についてしか喋らないから、ある程度の境界線を作ることが大事だと思う。
ーなるほど…!
自分の場合は趣味を超えて、仕事で使っているのもあり、365日四六時中接していなきゃいけなかったから、 とくにそれが強くて。でも東京に来て、フリーランスで働くようになってからは少し距離を保つのがうまくなり、健康的に付き合えるようになったかな。
ーSNSとの境界線をうまく作るにあたって、なにかアドバイスはありますか?
まずは“ハッシュタグをフォローする”機能を使うことと。とにかく、自分にとって幸せなもの、プラスなものを吸収しよう! 私は「#cutepuppy」をフォローして日々癒されてる(笑)。逆にもうひとつは、自分にとって意味がないもの、見たくないものを“ミュートする”勇気を持つこと! 例え知り合いをミュートしたからって、相手を嫌いになったわけじゃないから、見ていてタメにならないと思ったら区切りをつけることも必要だと思うの。
ーなるほど! この情報で溢れている社会のなかで、自分がなにを欲しているかを見極めて選んでいくっていうことがヘルシーなSNSとの付き合い方なんですね。
そうだね!

「自分の幸せに繋がる行動をとる」

ー最後に、これから挑戦したいことがあったら教えてください。
いままでは自分のやりたい仕事をひたすら楽しんでやってきたけど、社会に対して何も返せてなかった、貢献できてなかったていう感覚があるの。だから将来は社会のためになることをやりたいと思う! で、ひとつのアイデアとして考えてることは、犬の里親エージェンシーを始めること。日本ではペットストアで買うことが当たり前になっちゃってるから、もう少し里親として受け入れることを進めたい。

自分のことは自分で紹介! 荒川リンジーについてのライナーノーツ。

◀︎◀︎トップに戻る