彼女のダンステリア 宮川美穂 / ネイリスト
彼女のダンステリア
宮川美穂 / ネイリスト
爪のことだけじゃない、ファッションの新しい表現方法。
2020.08.07
“ガールとカルチャーがドッキング⁉︎”
これは私たちのアンセム、シンディ・ローパーの日本盤LPレコードの帯にあったキャッチコピーから。
一見むちゃくちゃに読み取れるけど、でもだんだん愛着が湧いてきました。
男子に負けず刺激的なクリエイションを提示する人たち。
編集部員が心からファンになったアーティストと向き合い、
彼女たちが何を思い、何のためにクリエイティブでいるのかについてしっかりと聞いてきました。
宮川美穂、ネイリスト。ファッションブランドのプレスを勤めていたが、徐々にネイルで表現する楽しさに気づく。「ファッションは流転する!」でもネイルチップが登場しましたが、爪先のデコレーションの話だけじゃなく、ファッションとして、アクセサリーのひとつとして取り入れられるデザインは感度の高い女の子を魅了している。コロナの影響で現在はサロンをお休みしているのでネイルチップがオススメ!
Instagram @always.sleepy.mho
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- ーネイリストとしてスタートしたのは?
- 2016年? 4年ちょっとくらい経ちました。
- ー美穂さんのネイルっていわゆるネイルアートではないというか、爪先だけのデザインの良し悪しじゃなくて、もっと広い部分まで影響してるというか。その人がつけるまで、ファッション込みで見たときに美穂さんのネイルがすごく活きている感じがするんです。なぜネイリストになろうと思ったんですか?
- ネイリストになった経緯として、もともとすごくネイルが好きでネイリストになりたくてなったわけじゃないんですよね。
- ー本当は何がやりたかったんですか?
- うーん、というかこれまでの経緯をざっと話すと、前はファッションブランドのPRをしていたんですよ、表現することが楽しいって小さいときから思っていたんですが、ちゃんと仕事としてやりたいと思えたのはPRをやる段階からで。実はその前は銀行に勤めていたし、その後はアパレルの販売の仕事もしていました。
- ー銀行に一度は就職したけど、心のどこかでずっとクリエイティブな仕事に就きたいという思いもあって、飛び込んでみたんですね。そこからどうネイルへと繋がっていったのでしょうか?
- 幼少期から絵を描いたり、色使うのが好きだったから、そういうことを仕事にしたいなというのが漠然とあったけど何も技術がなかったから、どうしよう…と思っていたんです最初は。で、たまたま友達にネイルしたときにその友達がすごく喜んでくれたんですよ。それがうれしくて。次第に雑誌でセルフネイルの企画に呼ばれるようにもなって…。あれ…ネイリストおもしろいかもしれない、って気づいて始めてみたのがきっかけでした(笑)。知り合いにネイリストの子がいたので、使う道具を教えてもらってスタートしました。
- ーネイルは美穂さんにとってどんなものですか?
- 表現方法のひとつでしょうか。組み合わせて表現することが好きで、だからこそネイルのフォーマットは私と合っていたのかなと思ったり。ネイルってアクセサリーを着ける感覚と似ていません? あると華やかに見えたりポイントになっていたり、高級感があったりするじゃないですかそれってファッションにおいて需要なことなんじゃないかなと感じていて。例えば、ロンTにデニム、そこにベルトをするかしないか、というちょっとした差で私はどう見られたいのかって部分が変わると思うんですよ。そのひとつとして。
- ーファッションで自分を表現する方法のひとつとしてネイルがあるなら、そこでネイルが表現できることってなんでしょう?
- 自分がいまどういうもので気分が上がるのかを表現できると思ってて、服の組み合わせだけじゃなくてネイルが入ることでその思い描いているモチーフをダイレクトに入れられたりするので。着るものとしては使わなさそうだけどエッセンスとしていま欲しいみたいなもの、例えばいまパールがいいと思ったときにネックレスで取り入れるんじゃなくてあえてネイルで取り入れてみるとか。
- ーそのファッション的視点があるからこそのあのデザインなんですね。
- さらに自分の姿勢もネイルで表現できると思っているんです。ただかわいいだけじゃなくて、自分のちょっとした意思表示ができたり、精神的な部分を表せるところでもあるんですよ。だからこそ全部をならしてファッションの一部として見た方がおもしろいんじゃないかなと思うというか。ネイルって美容のジャンルとしてではなくファッションのなかにあるものなんじゃないかな…と。
- ーなるほど! 美穂さんのデザインのバランス感や美的感覚が絶妙だなっていつも思うんですが、デザインするとき意識してることはありますか?
- デザインは指5本で考えることが多いんですが、そのなかでバランスを考えるってところですかね? あとはやっぱり自分がやりたいかどうか! これは絶対に大事にしています。
- ーデザインのインスピレーション源はなにになるんですか…?
- 私、結構インタビュー記事から得ることが多いです。
- ーへえ!
- 好きなデザイナーや歌手、アーティストのインタビューを読んで「ああ、こういうことを考えているんだ」と知ることで影響を受けるというか。自分とリンクするところもあって、精神的な部分から感化されたことをどうネイルとファッションに落とすかという考え方をしているような気がします。このアートをどう自分流に解釈しようっていうよりかは、もっと精神的な部分。
- ー最近読んだものはなんですか?
- マリーン・セルのインタビューです。もともと月をアイコンとして使っているのがかわいいなと思っていたんですが、その制作背景を動画とかで見て、ただキャッチーなデザインを売り出そうとしたんじゃなくて、実はリメイクや余った生地を組み合わせてコレクションを作っていることも知って…。アイコニックなものを入り口にして本当に伝えたい方はこっちなんだ、なるほどなと思ったんですよ。
- ー制作アプローチから感化されるのはおもしろいですね!
- なので今年はこれ以上新しい素材を買わないでいまあるパーツやネイルを見直したりしてます。もともと持っていたものが何年か経ってまたよく思えてくるみたいなことあるじゃないですか。あと、新しいものばっかり取り入れると一見新しいデザインにはなるんですが、それ以上に新しい表現って考えないとできなかったりして。なので自分が考えるトレーニングとしても、いまあるものをどう新しく魅せるか考えることが大事なのかなって思っています。
- ーファッションだったらトレンドより自分のスタイルがある人の方がいいですか?
- “トレンドも取り入れつつ、スタイルもちゃんとある”が完璧ですよね。私のネイルがトレンド感あるかはわからないんですが、でもトレンド自体はいいものだと思うので取り入れられることは積極的にやってみたいなとは思いますけどね! どっちかにするんじゃなくて、どっちもで!
- ーなるほど。
- あとはお客さまに施すものと自分の作品とでは使う脳みその部分が違うんですよ、やっぱり。全部お任せでオーダーするお客さまもいるけど、基本的には使いたいモチーフとかお題が一個あって、それをどう自分らしく表現するのかが求められていて。
- ーそれを美穂さんらしく表現するために何を心がけていますか?
- 雑誌のスタイリングを見たり、普段過ごしていて何気なく目にするもののなかで好きなものをピックアップして組み合わせています。この組み合わせは、ネイルでいうとこれとこれの組み合わせだな、とか。そんなことを普段から考えた上でお題に向き合って、これなら自分でもしたいかもと思えるところを探ります。
- ーいま発売されているネイルチップにはどんな思いが?
- 完全にアクセサリー感覚で作りました。お客さまにするネイルと比べてちょっと強めのデザインが多いんですが、それは世のなかへの提案も含んでいるんです。なのですべての人に受け入れられないかもしれないけど、これでも楽しめるかもしれないということを込めて自分の作品で発表するようにしています。
- ーそれこそ、このチップを男性にも付けて欲しいですよね。
- ですね。どんな性別の人でもアリになるかもしれない、そういう意味でのフラットさは大事だなって。例えば男性でピンクが好きだったとしても、それが男性だからどうってことじゃなく普通にアリだよね、ということをもっとフラットに捉えてもいいんじゃないかなって私は思うので、正直男性でも女性でもいいと思うんですネイルをすることって。どっちかのジェンダーに向けてというよりもっとフラットにすべての人がこれを見て、良いのか悪いのかジャッジできる方がおもしろいし、その方が自由かなって。女性のものってイメージが強いから、もっと気軽に誰もが行ったり来たりできるものになったらいいなと常々思っています。しかも最近は「実はネイルに興味があって」と連絡をくれる男性も結構いるんですよ。
- ーA$AP Rockyやタイラー・ザ・クリエイターもネイルしてますもんね、しかも嫉妬するくらいかわいい。
- そうそう(笑)。と思うと他にも興味を持ってくれている人はいるだろうから、偏見を捨ててぜひやってみてほしいんですよ。
- ーラインストーンのをはじめコロナ禍でリリースした美穂さんのネイルチップはどれも発明的でした! しかも別に指10本で付けなくてもつけたい指ひとつに付けるだけでもかわいくて!
- そうなんですよ、絶対に指10本にネイルをする必要はないんですよ。角度を変えたら一本でもかわいいだろうし。
- ーかわいいと思います! それこそ前に話してましたが、クラブイベントを今後するとき一本だけの即席ジェルネイルをやろうって、あれもそうですもんねまさに!
- ね! いいですよね。一本だったらいろいろ挑戦しやすいですし、めっちゃ大きなパーツを乗せてもかわいいだろうし、なんでもアリかなって! 気軽にファッショナブルにトライできるのはいまっぽいなと思います。
- 今後やってみたいことはありますか?
- ネイルをやるってなったときに、やれることが限られちゃうとつまんないなと思っているのでそこを広げることがしたいです。社会でいま大事なことに対してネイルでアプローチできる…なら。そう考えるとおもしろいし、ポジティブでいいと思うんですよ。在り方が広がることで、美容やネイルに興味ある人だけじゃなくてまた別の方向からネイリストになりたいって思う人も増えるかもしれないですし。逆にそれがないとネイリスト同士で差がなくなってしまうような気もしていて。
- ーデザインのアプローチで差をつけないと、ということですよね。
- 自分のなかで何を表現したらいいのかとか、精神的な部分とか好きなものが全部繋がっていかないと、ネイルって表現だけだとどうしても色や素材を選ぶってところだけでしか表現できないから結局全部が同じに見えちゃう気がしていて。そうなると選ばれる意味がなくなっちゃうのかなとか。アーティストとネイリストは違うのかもしれないけど、でも多少はアートを求めている時点でそこまで線引きをする必要もないのにとも思うし。だったら私たちする側が、どういうところまで自分はやって、やらないのかを考えないといけないなって。ちゃんと私のところに来る意味を持たせた方がお互いにとっていいと思ったんですよ。
- ーだからこそ美穂さんのデザインは美穂さんの精神性も込みで表現されているから一貫しているんですよね。
- 最初はとにかくいろんなことにトライしていましたが、技術がついてある程度やりたいことができるようになったら、やっと表現できることと向き合えるようになったというか。いまがいちばん自分の作っていることと精神性がリンクしてきている気がします。
自分のことは自分で紹介! 宮川美穂についてのライナーノーツ。
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