彼女のダンステリア 花梨 / モデル・コラージュアーティスト
彼女のダンステリア
花梨 / モデル・コラージュアーティスト
平面の世界で魅せる奥深いファンタジー。
2020.08.21
“ガールとカルチャーがドッキング⁉︎”
これは私たちのアンセム、シンディ・ローパーの日本盤LPレコードの帯にあったキャッチコピーから。
一見むちゃくちゃに読み取れるけど、でもだんだん愛着が湧いてきました。
男子に負けず刺激的なクリエイションを提示する人たち。
編集部員が心からファンになったアーティストと向き合い、
彼女たちが何を思い、何のためにクリエイティブでいるのかについてしっかりと聞いてきました。
花梨、モデル・コラージュアーティスト。「多摩美術大学」で舞踊ゼミを専攻。コラージュは中学2年生のときから作り始めている。コラージュ作品を主に掲載するインスタアカウントを開設し、そこから一気にコラージュアーティストとして知られることに。最近はGINZAやCYANなどファッション雑誌でアートワークを提供している。旅行先で手に入れた古い絵葉書や押し花、そしてウェブ上で見つけたフリー素材を巧みに組み合わせ、スペーシーで独創的な作品を次々と生み出している。
Instagram @karin_works_
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- ーモデルとして活躍されていますが、と同時に最近はファッション雑誌などでコラージュアーティストとして作品を提供していますよね。さらに現在は美大に通っているとか…。
- 「多摩美術大学」に通っています、でも専攻はコラージュとは一見離れた舞踊ゼミで(笑)。人が関わる空間について勉強したいと思ったんです。簡単に説明すると、人がいきなり転んだとしてそこで見える空間(目線)が変わるじゃないですか。さっきまで見ていたものが、何かの動作が起きると違うものに見えるみたいな。
- ー多摩美に通いたいと思ったのは、その空間美術を勉強したいと思ったから?
- いいえ、最初は何がやりたいのかを探すためでした。コラージュは美大に入る前からずっと続けていたことだけど、それを仕事にすることはあんまり考えてなくて、むしろ現代アートとかパフォーミングアートといった部類に興味が湧いてきたんです。
- ーその空間美術ってどういうものを指すか教えてもらってもいいですか?
- 光とか照明とかを使ってどう表現するかってことですかね。例えば、美術館を作りましょうってときにどういう空間にするかを考えるようなこと。その空間へのアプローチを私はコラージュで平面へと落とし込んでるって感じかな。
- ー確かに。作品からは立体感や奥行きを感じます。
- そうですね、奥行きが命。視覚的にも気持ちいい配置を探りながら…。このモチーフをちょっと遠くに置くとまた世界が広がったりして、その差がすごくおもしろいなと思います。逆にそこを考えないと、ただ素材をきれいに貼り付けただけになっちゃいますしね。
- ー専門的な手法の話になっちゃうんですけど、花梨さんが感じるその奥行きの気持ちいいところがどういうことなのかって何となく説明できます?
- 直感だけど、自分が持っている感覚をパズルっぽく組み合わせてうまくハマったときの感覚。シンクを使ったコラージュがあるんですが、それは私が中学3年生の頃に実際に見た夢に影響されているんです。
- ーその夢の内容はいまも覚えていますか?
- 鮮明に覚えています。何言ってんだって感じなんですが、クラスのみんなと海底を歩いていて、先生が「こちらにエイが泳いでおります」とかガイドしていたんです。向こうの方に入り口が見えてきてそこから中に入っていくとそこにお風呂がいっぱい並んでいて、急にみんなが真っ裸になり始めてそこでゴシゴシ体を洗い始めていました。しかも男女関係なく(笑)。そこから皆んなが違う扉に入っていくという…そんな夢でした(笑)。
- ーええ! 最後が気になります(笑)。
- (笑)。これって生まれ変わりの夢なのかなって思ったんですよ、死んだ後に海底を歩いて、また誰かのお腹から生まれ変わるために身体を洗って…という。
- ーすごい夢を中学生の頃見たんですね。
- そうなんですよ! そのときはよくわかんない小説を書いていて、そこに書いてあったんですその夢が。だからここまで覚えているんだと思います。
- ーこれはいつ作ったものなんですか?
- 一年前です。事務所の社長さんからプールをテーマに作ってみたら? と提案されて作ってみました。作る過程としては自分で蒐集しているものとネットにあるフリー素材のものなど素材を集めてパソコンで構成を考えています。私が作っているのはデジタルアートだと思っていて。でも展示したいので実際に紙に起こしても作っています。その作業は本当に細かくて気が遠くなるんですが…。
- ー身の回りにある葉っぱやお花、パソコンで見つけた素材、古い雑誌とかから見つけたモチーフなどいろんなところからピックアップできますよね。
- そう。だから自由でいくらでもどんな世界でも作れちゃうんです。
- ー何か一貫してることってありますか?
- 全体的に大事にしているのは、自分のなかのファンタジー部分。完全にひとつの世界として完成させたいんです、手抜きナシで。
- ーそのファンタジーやおとぎ話の部分はコラージュでどう表現しています?
- 自分の理想世界、社会を作るって感じです。あ、理想じゃないけど、こうだったらおもしろいな、みたいなのを作る感じです。渋谷のスクランブル交差点がこうだったらな〜とか。
- ー日頃そういう風に見えたりするんですか?
- そうかもしれないです。街を歩いて、ぐったりしてる人に羽を生やして自由に飛ばせたいな…とか(笑)。私の脳内はファンタジーでいっぱいなんです。
- ーもともとファンタジーに触れてきました?
- あー、ドイツの芸術的な幼児教育として知られるシュタイナー教育を受けていました。
- ーどういうことを実践していたかって覚えています?
- すごく覚えてます。映画も原作を読んでからじゃないと見せてもらえなくて。だから映画を観るときは自分で想像したり考えるトレーニングはずっとしてきたと思います。その頃から何かを作っていましたし。
- ー早い!
- でも逆に、世間離れしてるんだと思っていて。
- ーなんとなく自覚してたってこと?
- というよりいま考えると有名なテレビ番組もよくわからないしなって。妖精が存在するってずっと信じていましたし。中学3年生の卒論で妖精について書いたくらいなので(笑)。妖精文学もたくさん読んでいたんですが、読めば読むほど現実も見えてきて…(笑)。
- ー花梨さんはどういうモチベーションでコラージュ作品を作っていますか?
- メディテーションに近いのかも。脳内でずーっと考えているからそれが続くとパンクしちゃうのでそれを処理作業してる感じです。意外と言葉にできない自分の潜在意識みたいなのがすごく作品に含まれていているんだと最近気づいたんです。
- ー具体的にどんな潜在意識が含まれているのか教えてください。
- 私って作品のなかで太陽のモチーフを使わないんですよ、むしろ月を多く使っていて。そもそも太陽って直視できないものだけど月は視覚的にどんな形をしていてって見れるものですよね? そういう太陽に照らされている月とか、何かに支えられてる存在が自分たちと近いというか。
- ーなるほど。
- なんか太陽て強過ぎるんですよ。私たちって本当はエネルギーをもらって生きてる側の人だから。私もそんな注目されなかったら、ずっと生きてはいるけど誰も知らないわけですよね。そう考えると自分がそのとき思っていることが作品を通して整理されていってんだなって思うんです。自分の思想がはっきりとしてくるような。
- ーコラージュって一見終わりがなさそうに見えるけど、これだ! みたいな瞬間があるんですか?
- あります! 終わりって思う瞬間が絶対に訪れます。
- ー迷走しちゃうときは?
- あー。そのときは友達や母に聞きます。「ぱっと見てどう思う?」と聞くと「なんか怖い」とか何かしらフィードバックがあるんですけど、そのファーストインプレッションが作品においてすごく大切だと思っています。とくに父はデザイナーですし感覚的にも信頼している人です。コラージュを立体的に見てくれるから「ここの流れ悪いね」「こっち左じゃなくて右なんじゃない? 」とデザイナー目線で全体的な作品の流れでアドバイスをくれるんです。
- ーさっきはコラージュで異世界を作りたいと言ってましたが、狭いモチーフ選びにこだわるよりかは全体の世界観がよりよくなるように作っているんですかね?
- そうそう!
- ー例えば、月を使いたいってとこから派生させるみたいなアプローチじゃなくて、この一枚絵として魅せたいというか。
- プロセスはそうですね。でもストーリーは作りながら生まれてきます。本を読んだ後とか、この一文がおもしろいから膨らませようとか。日々そういう本や映画からインスピレーションを得ることが大事ですね。それがあるからいろいろと考えられるし、自分のなかでファンタジーの世界が広がります。
- ーそのファンタジーを表現する方法としてコラージュを選んだことは花梨さんのやりたいことと一致してる媒体なのかなって思いましたが、他に挑戦してみたいことはありますか?
- 空間作りの延長ということでアニメーションを作りたいです。MVや動画制作のアートディレクションとか。自分の確固たる世界観があってできる表現をもっとできるようになりたいです。
- ーさっきの太陽と月の話の続きというか、いまだったらSNSもあるし誰であろうが自分から発信できるわけで、こうやってやりたいことに積極的にトライしてアーティストが主体的に活動できるようになったことについてどう感じていますか?
- いまはすべてが自分次第ですよね。自分次第だと思う。私も最近、コラージュだけのインスタを作ったんですが、そうするとちゃんと仕事が来るようになったというか…やっぱりすごい時代だなって思いました。とくにコロナ禍のいま、芸術っていらないものとされがちだけどそれじゃ逃げ場がないしやっぱり終わってしまう。もっとアートが娯楽になればいいと思っているので、そういう世のなかに対してできることを表現していきたいんです。
- ーアートは作品の価値としては高尚なものでもある反面、題材や内容は日常と密接なものでもありますもんね。
- そう、もっと砕けていいはずですよね。西洋美術ももっと触れやすいもになってもいいのにって。いまそういうことも大学で勉強していて楽しいんですが、アートと政治と社会が分かれすぎていると思うんです。昔は政治のことをアートでや絵で風刺したり、民衆も字が読めないから絵でまず描いてそれを教科書がわりにしたり、教会の絵画も文字が読めなくても神について知れるようにあるってことですよね? それがアートになってるわけで。でも当時はそれがもっと生活と密接していたと思うんですよ。でも、最近になってそういうことまで気にしてる人が出てきていると感じていて。今回の企画に出れたことで、私も他の出演者について興味を持って調べてみたりしたし、そういうことがアート好きだけじゃなくてもっと社会で普通に働いてる人にも知ってもらえたらいいのにって思ったんですよね。
- ーその発想がもうあるなら今後もっとおもしろいことを仕掛けられそうな…!
- そうですね。やっぱりバンクシーはすごいと思います。何をしても価値を創り出してしまう。もちろん作品も素晴らしいのですが。電車にマスクをしようって描いていたものは、いまの社会ともリンクしていていいなと思いました。日常だったいままでの空間を一瞬で違う空間に変えてしまうことができる彼らに憧れます。
- ーありましたね! 電車に描き込むというパフォーマンス含め衝撃的でした。
- そんなアートと社会がリンクするようなことしていきたいんです。
自分のことは自分で紹介! 花梨についてのライナーノーツ。
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