村田実莉 / アートディレクター、ビジュアルアーティスト
彼女のダンステリア
村田実莉 / アートディレクター、ビジュアルアーティスト
虚構的な“ファニー”が生み出すエンターテイメント。
2020.09.11
“ガールとカルチャーがドッキング⁉︎”
これは私たちのアンセム、シンディ・ローパーの日本盤LPレコードの帯にあったキャッチコピーから。
一見むちゃくちゃに読み取れるけど、でもだんだん愛着が湧いてきました。
男子に負けず刺激的なクリエイションを提示する人たち。
編集部員が心からファンになったアーティストと向き合い、
彼女たちが何を思い、何のためにクリエイティブでいるのかについてしっかりと聞いてきました。
村田実莉、アートディレクター、ビジュアルアーティスト。多摩美術大学でテキスタイルデザインを学び、卒業後アートユニットskydiving magazineとして活動を始める。現在ではデザインだけでなく映像技術も習得し、アーティストのMVやファッションブランドのビジュアルを制作するなど、さまざまな分野でクリエイティブを発揮している。横尾忠則の流れるような生き方に共感したことと、占いの後押しもあり一時はインドへ移住するが、コロナのため現在は東京に一時帰国中。
Instagram @survival_dance
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- ー実莉さんと初めて出会ったのは、アートユニットとして『skydiving magazine』を作っていた頃で、トレンドから一線を画したスタンスと世界観に衝撃を受けたのを覚えています。最近は個人のお仕事もこなしていると思うのですが、一貫している実莉さんのクリエイティブについて今日は聞けたらと思います!
- ありがとう、よろしく〜!
- ー早速なのですが、実莉さんの作るものってデュオとしての作品も含め、テイスト的にちょっと海外の日用品広告にあるワザとらしさやぎこちなさに近いものがあるような気がしてて。
- 海外のプロダクトの広告にある“謎の虚構感”みたいなものに無意識のうちに惹かれてるんだよね。やる気も熱量もすごいあるのに、伝えてる内容とデザイン自体はシンプルだったり。その熱量と現実のギャップみたいなところがファニーだなって。
- ーなるほど! そういう感覚的な部分は意図してデザインに取り入れているんですか?
- 私の場合は自然派生的に出てきたものだと思う。人生で初めて「おもしろい! 」って思ったのが小さいときに観ていた「ハッチポッチステーション」だったんだけど、改めて観ると不思議な世界とキャラ構成で物語が突っ走っているよね。 替え歌のコーナーではグッチ裕三っていう大の大人が全力でパフォーマンスをしているけど、その賑やかしとしてマペットが周りを囲ってるっていう。そこにも“謎の虚構感”があって、当時も知らず知らずにそこにファニーさを感じていたんだろうね。小学生の頃、NHK放送児童合唱団にいて特別身近な存在としてみていたから、強くインスピレーションを受けて育ったと思う。
- ー最近までインドに行ってましたが、そこでは新たにおもしろい発見はありましたか?
- インドは人も街もとにかくアグレッシブだった! 朝の6時くらいからお寺のお経が大音量で流れて、そこから路上では人々が叫びながら野菜や新聞を売り始め、夜のクラブでも踊らない人なんていないくらい! でもそのエネルギッシュさが快活で新鮮だったな。
- ーそれこそボリウッド映画のオーバーなテンションとか、実莉さんが言うところの“ファニーさ”と合ってる気がします!
- そうなんだよー! ボリウッド映画のノリって「ハッチポッチステーション」のノリと似てるところがあって。例えば主人公が敵をパンチすると、敵だけじゃなくてその周りにいる人みんなが飛んで行っちゃうみたいな大げさとか。そこにも変な熱量が発生してるんだよね。ゆくゆくはそんなインドのエンタメの仕事もしてみたかったな。コロナが収束したら戻るつもり。
- ーそうだったんですね。インドでは主に日本からの仕事をリモートでやっていたんですか?
- うん! 誌面のグラフィックを作ったり、映像のモーショングラフィックなど遠隔でできる仕事を主にやってた。
- ーコロナをきっかけにリモートワークが世間的に受け入れられ、東京を離れる人が増えたという話を聞いたのですが、その点では実莉さんは先駆けをしていたのかも?
- 確かに…! でもやっぱり日本に帰ってからアーティストのMVでアニメーションを作っていたときは、撮影時に細かいライティングの指示をしたり直接コミュニケーションを取る必要もあって、これは現場にいなかったら相当難しかったんだろうなと思ったりもした。写真だったら後日レタッチで修正とかはできるけど動画だとやっぱり難しいから。だから仕事の内容によるのかな? まあ、インドだったら気軽に日本と行き来できるから、拠点をそっちに置いちゃうのは全然アリかも!
- ー現場を大事にしていることと遠隔でも表現できることって、自分のなかではどう棲み分けているのでしょうか?
- その場で指示を出した方がいい場合は、現場を大事にしたいと思うかも。この間、CHAIのMVを作ったときがまさにそうだった。いわゆるきれいなモデルをただクールに撮る内容だったら私の出番はないけど「もっとキャピキャピしてください! 」とか出演者のテンションを引き出したいときは直接コミュニケーションとれた方がいいよね。
- ーあのMVはCHAIのエネルギッシュさと実莉さんのグラフィックの世界観がすごいマッチしてる! と感動したのですが、そういうのも撮影後の編集だけではなく現場のグルーヴから生まれたものだったんですね。
- そうだね、ナチュラルな表情を引き出すためにすぐ横から喋りかけたりもしてたよ!
- ーところで映像はなにをキッカケで始めることになったんですか? グラフィックから映像やアニメーションに表現の幅が広がって、ますます実莉さんのエネルギッシュさに磨きがかかってると勝手ながら感動してました…!
- ありがとう! 初めてアニメーションに挑戦したのは『EYESCREAM』でスタートしたビジュアル連載「VIBES & VIBES」。このときは写真を組み合わせてシンプルな動きを付けてただけだったけど。
- ーその連載で映像にトライしようと思い立った理由は?
- その制作時期に慕っている母校の教授の藤原 大さんにこれまでの作品を見せに行ったんだけど、「作品自体はおもしろいのに、アウトプットの展開があまりにも非効率的」と言われて。それで最後に一言「とにかく動かせ! 」と言われたんだけど、そこからぼんやり映像やってみようかな〜と思いつつ、デザインにアニメーションを足してみたんだ。
- ーそういうことだったんですね!
- 結局、その連載の担当者から動いている作品の方が閲覧数もよかったと聞いて。映像制作をするようになった。映像の仕事がポツポツきはじめた最初の頃はまだ動かし方がわからなかったからコンテとグラフィックは自分で作ってエディットだけ別の人にお願いしてたけど、もっと自分の思い通りに表現するためには自分でできた方が早いと思って、勉強して自分で編集もやるようになった。そのタイミングで仕事も増えていったのかな!
- ー映像を作るようになってから表現でなにか変わったことはありましたか?
- 変わったというよりも、自分らしい熱量をもっと込めやすくなったと思う! 静止画よりも圧倒的に情報の量が増えた分表現の幅も広がるし、いまはそれが楽しい。
- ーひとつの連載キッカケに映像を始めたのもそうですが、普段からアーティストとして一個の表現方法を貫くよりも、クライアントなど周りからの依頼をキッカケに表現方法を変えていくことの方が多いのでしょうか?
- うん。仕事や作品を作る上で同じ表現方法をずっと続けたいというよりも、内容に応じてやってみたいことを毎回やりたいのかも。手法に私のアイデンティティはないから一つの方法にこだわりはないし、自分の気分と周りの状況を大切に自由に作っていきたいと思ってる。でもモノの見方自体はずっと変わってない!
- ーだから振り返って見ると“実莉さんらしさ”みたいなトーンが一貫してあるんですね。そしてその元を辿ると「ハッチポッチステーション」やボリウッド映画に感じていたファニーさに繋がってたり?
- そうそう! 手法とかモチーフこそ変化してるけど昔からある審美眼みたいなものは変わってないし、それで判断してるからどういう方法でアウトプットしても、最終的には私らしさが滲み出てくるのかも。
- ー自分の思い描くものをさらに表現していく上で、今後新たに挑戦したい手法ってありますか?
- CGや3Dを取り組み始めてるのと、空間作りやインスタレーションとかフィジカルなこともこれからトライしていきたいな。あとは、最近サステナブルに関心持つ人が増えて、自分自身も環境問題に対する向き合い方が変わってきたから、そういう人たちを巻き込んでなにか作っていきたい。実際にそんなテーマの展示が近々あって、その準備で改めて環境について勉強したりいろいろと計画中!
- ーそれは楽しみですね!
- 結局、自分の仕事ってなにかを伝えるうえでの手段であってエンタメだから。意義あることをやっているけど伝え方に悩んでる人のアイデアをもっと見やすくしたり、おもしろく見せたり、これから手助けをしていきたいと思う!
自分のことは自分で紹介! 村田実莉についてのライナーノーツ。
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