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話題のぬいぐるみアーティスト長谷川有里の個展が見たくて京都まで。
話題のぬいぐるみアーティスト長谷川有里の個展が見たくて京都まで。

Is That All There Is?

話題のぬいぐるみアーティスト
長谷川有里の個展が見たくて京都まで。

2018.08.31

いま注目のぬいぐるみアーティスト長谷川有里さんをご存知ですか?
様々なものをモチーフにし、
そこにユーモアとほんの少しの笑いが注がれる脱力系ぬいぐるみが
幅広い層から人気を集め展示をするたびに即完売。
そんな長谷川さんの個展がJOURNAL STANDARD 京都店の3階にて
8月18日から26日まで開催されていたので、かねてより長谷川さんと親交があった
人気の若手フォトグラファー松藤美里さんと一緒にお邪魔してきました。
「ひさしぶり〜」というハグで始まった
2人の会話から長谷川さんの作品の魅力を探ります。

Photo_Miri Matsufuji

本物にはなれない切なさを
表現しています。

ー京都で初の個展ということで、松藤さんと一緒に東京から応援に来ました! なぜ京都で開かれることになったのですか?
長谷川有里(以下長谷川):ありがたいことに〈ジャーナル スタンダード〉さんからお話をもらって。昨年、渋谷店でグループ展を催されたときにも参加させて頂いたんですが、そのご縁でお声がけ頂きました。お店のなかにこんなに広い展示スペースがあるなんて驚きです。
ー個展のタイトルが”Is That All There Is?”ですが、今回の展示のテーマやコンセプトをお伺いしてもいいですか?
長谷川:私の作っているものは言ってしまえば全て偽物なんですが、偽物ってやっぱり本物にはなれない切なさがあるんですよね。それをいつも意識して作っていて、今回はその“切なさ”をより感じてもらえるような内容を目指しました。タイトルは日本語で「それだけのこと?」という意味で、ペギー・リーという歌手の歌のタイトルから取っています。なんだか切なさを表現しているフレーズだなと思って。最近の個展のタイトルは歌のタイトルから来ていますね。
ー例えばどういうところにその”切なさ“が現れています?
長谷川:展示するぬいぐるみはその企画内容や規模に合わせて変えたりしているんですけど、今回の展示ではより本物になれない切なさを表現したかったので、あえてキャラクターを中心に展示しています。
松藤美里(以下松藤):ひとつだけオリジナルのイラストと向き合って立ってる作品があるんだけど、私はそこに切なさを感じたよ。ぬいぐるみの前に立てかけてあるイラストは鏡ってことでしょ?
長谷川:あ、わかった? さすが美里ちゃん!
松藤:ぬいぐるみの方はいつも通りゆるっとしているんだけど、その前に向きあうように立てかけてあるイラストが本物っていう。自分にはそんなふうに見えてるのかな? っていう切なさがあるよね(笑)。あと、このなかで突然オリジナルが現れる衝撃! 新しいおもしろさがあって、今回の作品のなかでいちばん好き。

鏡にオリジナルが映っているキャラクター。

長谷川さんと有名SF映画に登場する人気キャラクターたち。

新しい表現方法にも
挑戦しています。

ー今回の個展では動くぬいぐるみなどこれまでとは違った作品も作られていますよね。それらも”切なさ“を表現してるんですか?
長谷川:壁に貼りつけて展示するスタイルはこれまでもずっとやってきたものだったので、それだけだとつまらないかなと考えていて。せっかく広いスペースがあるから、それを活かそうと作ってみたのが動くぬいぐるみ。おもちゃ屋にあるものをイメージしています。おもちゃ屋で動くぬいぐるみを見るとなんか切なくなりません?
松藤:あぁ、同じところ行ったり来たりして、壁にばんばん当たってる感じとか?
長谷川:そうそう! 今回のテーマにぴったりだと思って、一緒に展示してます。
松藤:なるほどね。なんでかな? と思ってたけど納得。
長谷川:あと、ペッツをモチーフにしたオブジェがあるんですけど、キャラクターの頭が折れているんです。
松藤:あのキャラクターの口からラムネが出てくるやつね(笑)。頭だけ折れて下に置いてあるの、確かに切ない。
長谷川:まぁ、たまたま折れたんだけどね(笑)。
松藤:あ、事故だったんだ?
長谷川:でも、梱包する前に心のなかで折れたらおもしろいなって思ってたの。そしたら、昨日準備するときに包みを広げたら本当に折れてた!
松藤:なんかリアルだから切なさが増していいね(笑)。

電池で動くぬいぐるみ。

偶然折れたという作品。

ラッセンには笑いました。

ー今回は全部で70点ほどの作品が展示されているそうなんですが、松藤さんは他に気になる作品はありましたか?
松藤:やっぱり、ラッセンですかね(笑)。
ーえ、ラッセン? どれですか?
松藤:わからないですよね?(笑) イルカがくっついているロングヘアの人です。私も始めは誰がモチーフになっているか全然わからなかったんですよね。髪が長くてブロンドだし海外の女優さんかなと思って、ゆりっぺ(長谷川有里)に聞いたらラッセンだって。クリスチャン・ラッセンというイルカの絵を描く有名なアーティストです。イルカの絵がよくジグソーパズルになっているから知ってる人も多いかな。本人は確かにロングヘアでいつもタンクトップを着ている男の人なんですけど、そこかー! だからイルカがいるのかー! みたいな。フッて笑っちゃいました。ラッセンはなんで思いついたの?
長谷川:友達の会話のなかから(笑)。
松藤:割と常に頭のなかでは次は何を作ろうかなって考えている感じ?
長谷川:うん、そうかも。ふと思い出したりもするから、その場ですぐiPhoneにメモしたりしてる。ラッセンのように結構、人との会話のなかから出てくることも多いかな。

中央のいちばん下に展示されているのがラッセン。

頭のなかにあるものを
表現しているだけ。

ー制作過程はどのような感じなのですか?
長谷川:下絵を描いてトレースして型を作り、布に合わせて切っていきます。基本的にはまとめて切って、まとめて縫うという感じ。縫うよりも型を取って布を切る作業のほうが大変で、時間がかかるので先にまとめてやっちゃいます。
ーどれを見てもこのキャラクターかな? というのはなんとなくわかるんですけど、表現の仕方がすごく独特というか。どうやってキャラクターの魅力を切り取ってるんですか? 長谷川さんが見ているポイントを知りたいです。
長谷川:実はイラストに描き起こすときにオリジナルは見ないですし、ここがこのキャラクターの魅力だって感じで意識的に切り取ったりはしないです。有名なキャラクターってすでに頭のなかにだいたいの形やイメージってあるじゃないですか。その頭のなかにあるものをイラストにして描いています。見て描くと無意識に似せようとして、そのものになってしまうので。
松藤:確かにそうだよね。ってことは、ゆりっぺには全部こういうふうに見えているってことだね(笑)。

加賀美健さんと
ストレンジストアのおかげです。

ーそもそも、ぬいぐるみを作り始めたきっかけは何だったのでしょうか?
長谷川:以前はずっとイラストを描いてたんです。それ以外の作品にしても、パネルに布を貼ったりするくらいで平面作品ばかりでした。
松藤:そうだよね。私が初めてゆりっぺに会ったときもイラストを描いてたと思う。確か4〜5年前で、加賀美健さんと中村ジョージさんが一緒にやっていたグループ展だったかな。その後もしばらくイラストを描いていたよね。
長谷川:そうそう、ぬいぐるみを作り始めたきっかけはまさに加賀美健さんとの会話。健さんがやっているストレンジストアに初めて行ったときにかなり衝撃を受けて、自分もそこに何か展示してもらいたくて作品を持って行ったんです。自分からやりたい! と思って作品を持ち込んだのはこれが初めてでしたね。
松藤:それがいつ頃のこと?
長谷川:2014年の夏くらいかな。
ーそのときは何を持って行かれたんですか?
長谷川:あるキャラクターのイラストを持って行きました。誰とは言わないんだけど、誰かが描いたような偽物のイラストです。
松藤:そういうシリーズがあったんだよね。なんか全部同じキャラクターなんだけど、タッチが違うというか、それぞれ別の人が描いたように見えるイラストシリーズ。
長谷川:健さんに見せたら、やっていいよって言って頂いたんですけど、そのときにぬいぐるみも作ってみたら? って言われて。そういえば、私が小学生のときにフェルトでぬいぐるみや小物を作るのが結構流行ってて、私も好きだったなぁって思い出したんですよね。やってみようかなと思って作り始めました。だから、いまの作品があるのはストレンジストアと健さんのおかげです(笑)。

予想外の笑いがどこかにある。

ー松藤さんがぬいぐるみの作品を初めて見たのはいつ頃ですか?
松藤:中目黒のVOILDで「アートぶっかけフェア」という加賀美さんがやっていたZINEフェアで見たのが初めてですね。2015年だったかな。その少し前に私たちが出会ったNYの女の子2人がいたんだけど、その子たちの似顔絵をぬいぐるみで作っていて、それを買いました。いまでも家にあるよ!
長谷川:えー、あれまだ持っててくれているんだ! ありがとう!
ー松藤さんが思う、長谷川さんの作品の魅力って?
松藤:なんだろう、言葉にするのは難しいんだけど、本当に思ってもいないところから笑わせられるんですよね。フッと力の抜けるような笑い。それがまたすごく細かくて、予想外なところもくすぐられます。
長谷川:確かに、細かいところには結構こだわっているかも。身につけているものやちょっとした小道具とか、そういうところが気になるんだよね。
松藤:そうだよね。キャラクター自体は大まかなのに、小物が細かい! 下に落ちてるハンバーガーもちゃんと包みがあって、それが結構リアルだったのがおもしろかった。

床に落ちたハンバーガーの作品。

最終目標は爆破です!

ーいま長谷川さんの頭のなかにはあるけど、まだ形にしていなものってありますか?
長谷川:ぬいぐるみはもっといろんなものを作っていきたいなと思うんですが、最終的にはそのぬいぐるみたちを全部爆破させたいと思ってます。
ーえ、爆破?(笑)
長谷川:いまは最終的に爆破するために制作していると言っても過言ではないくらい。仮面ライダーとか戦隊もののオープニングでよく見る爆破シーンくらい派手にやりたいです。
ーそれはなぜ? なんだかかわいそうじゃないですか!
長谷川:なんでだろう、わからないんですけど…やっぱり偽物の辿る運命みたいな感じですかねぇ。
ーせ、切ない! 1回きりのアートですね。
長谷川:それがいいんですよ。
松藤:なんかスローモーションで撮ったりしてもおもしろいんじゃない?
長谷川:そうそう、まさにそう! ハイスピードでね。
松藤:もうすっごい想像できちゃう! 綿が飛び散っていく感じとか。いまってトータルでどれくらいの作品がある?
長谷川:数えたことはないんだけど、300個以上は作っていると思う。あと、これまでは小さいサイズのものしか作ってこなかったから、等身大のものがあってもいいかなと思ったり。
松藤:かなり大規模な爆破になるね(笑)。絶対見に行くね!

PROFILE

長谷川有里

三重県生まれ。東京を拠点に制作を行い、ハンドメイドのぬいぐるみで幅広い層から人気を集めている。王将ZINE FAIR メンバー。

松藤美里

1991年東京生まれ。東京を拠点に、国内外問わず雑誌や広告など幅広いジャンルで活躍している注目の若手写真家。

INFORMATION

JOURNAL STANDARD 京都店

オープン20周年を迎えた昨年9月に路面店へと移転リニューアル。1階がメンズフロア、2階がウィメンズフロアで3階ではメンズ、レディース問わず様々な展示やポップアップが開かれている。過去には活動10周年を記念してフォトグラファー大辻隆広氏の写真展も行われた。

京都府京都市下京区四条河原町西入ル御旅町21 藤井大丸御旅店
MEN’S 075-211-0132
LADY’S 075-211-0135