PROFILE
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JACKSON kakiくん
3DCGアーティスト。大学院に通いながらVR、メタバース、現代アートを研究中。現在オランダ在住のため、今回は「VRChat」を通しアバター(本人自作)として参加。 -
倉田佳子さん
アーティストコーディネーター、ファッションライター。コロナ禍のファッションウィークがオンラインに移行したタイミングでメタバースについて好奇心を持ち始めた。 -
te’resaさん
東京生まれLA育ちのフォトリアル・バーチャルシンガー。バーチャルな存在を武器に「すべての壁は越えられる」をテーマに活動中。
メタバース、どこまで知ってる?
今回の議題です。忙しい方は気になるとこから“つまみ読み”するのも◎!
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- 1. 元祖メタバースから、コロナ禍を経ていまの形へ。
- 2. 着るという概念を改める、バーチャルファッション。
- 3. もはやバブル状態? NFTアートの現在。
- 4. 本人に訊く、バーチャルヒューマンという存在。
- 5. 未来について。今後どう付き合っていくべき?
1. 元祖メタバースから、コロナ禍を経ていまの形へ。
まずは、メタバースの概念を理解していくためにお聞きしたいのですが、そもそもこれっていつから言われ始めたものなんでしょうか?
概念だけで言うと、VR(バーチャルリアリティー)についてはだいぶ前からあります。いまはこうやってゴーグルやマシンを使っているけど、もとをたどるとそれって“没入体験”という感覚そのものであって実は昔からあるものなんですよ。例えば「元祖VRって何? 」と聞くと、それは洞窟壁画だと答える人もいるくらい。
洞窟壁画がVR… というと?
つまり、日常から非日常へアクセスするというある種の“没入体験”、つまりはVRなんじゃないかって解釈です。
メタバース自体についてはどうでしょうか?
そもそもVRとメタバースの違いは、そこに社会性があるかどうかがひとつの論点です。つまりコミュニケーションがあるか、人と会ってインタラクションを取れるのかとか。それでいうと、90年代からインターネット上にアバターを介してチャットできるサイバースペースはすでに誕生してました。
私たちの世代で馴染みがあるものでいうと「アメーバピグ」的な?
そうですね。そこからよりメタバースの概念が普及したのは2000年代半ばにアメリカで誕生した「セカンドライフ」。PC上のディスプレイですがVRChatと同じような3Dワールドが存在して、そこでショッピングをできたり。電通とか大手広告会社もそのゲーム上に広告を出してて、もうひとつの現実として、メタバースの可能性が期待されていました。
当時はゲーム感覚で利用することが主な目的だったものが、現在のようにさまざまな業界が踏み込み、社会的にも注目されるようになっていったのはいつからなのでしょうか?
コロナ以降ですね。パンデミック中に外出に制限がかかったりしていたなかで、必然的に不可欠な存在となったのが大きかったんじゃないでしょうか? それに伴って、人々のメタバースやVRに対するリテラシーが確実に上がったなという感覚がありました。2020年からメディアを通しても発信されたり、例えばDJ周りではバーチャルイベントを配信するのが身近になって、実践してみようと思う人が出てきました。
倉田さんはいかがですか? コロナ中、そういったイベントへ足を運んでましたか?
実はあんまり行ってなかったですね。SNS上で流れてくる告知や参加している人たちの投稿などを通してそういう流れが起きていることは知っていたけど、自分からその空間に入り込むみたいなアクションはしなかったですね。
そこには何か理由があったのでしょうか?
果たしてリアルなクラブでしか得られない体験や感覚を、バーチャル上でも感じられるのかというポイントが障壁になってましたね。やっぱりクラブのおもしろさって、音を聴きに行くだけではなくその場でしか起こりえない偶発性だと思うんですよね。あと、いまはいろんなアバターがあると思いますが、テンプレート化した人型のアバターを見たときに、それを冷めた目で引いて見ちゃうみたいなところがあって。多分それは私自身がバックグラウンド的にゲームを通ってきていないからなんですかね? その世界を開拓したいといった好奇心も、そもそも低かったです。
最高の回答ですね。これを読んでる多くの人がそうだと思うけど、結局この2年半、VRライブとかメタバースイベントとかやってきたなかで、正直やっぱりリアルのイベントがいいって認識に至りましたよね。僕もそうだったから。そうすると、じゃあなぜいま、それでもメタバースが求められるのかとか、いまだに求める人がいるのかってことを考えるに至りますよね。
ではメタバースに対してあまり前向きでなかった倉田さんが、実際に必要だと感じられた体験はありましたか?
コロナ前によく訪れていた上海ファッションウィークへ突然行けなくなったときですね。2020年2月頃だったと思います。基本的に中国ではネット規制があることから、wechatや小紅書など中国独自のSNS以外では情報があまり出てこなくて。パリやロンドンのファッションウィークに比べて、海外からファッションショーをどう見ればいいのかという状況下で、向こうの「XCOMMONS」というプラットフォームを作る会社がPR会社とタッグを組んで、かなりスピードが早い段階でオンラインでの取り組みを仕掛けてて。拡張現実的にショーを見れたときは、必要があるというか身近に感じましたね。
そのときは抵抗はとくに感じなかったですか?
はい。いつも通りブランドのPRから「これが今回のインビテーションです」と送られてきたリンクを開いたら、パーっとそのサイトが立ち上がってきて。機材を用意する必要もなく家ですぐに楽しめたし、ガイドもなくそのサイト上を自力で探っていくというのも没入感覚があっておもしろかったのかも。あとは、ファッションウィーク期間に沿った期限つきで公開していたことも一度っきりの体験だと思わせたきっかけかもしれません。
あとは、〈バレンシアガ(BALENCIAGA)〉とかはどうでしたか? あれはショーの代わりに3Dゲームを作っていたけど。
あれはおもしろかったですね。「あつ森」のようにテンプレ化されたゲームとは違って、こちらも期間制限付きでブラウザー上に公開されてましたよね。物語の世界観やストーリーがコロナ禍の現実とリンクしているところがグッときました。例えば広告だらけの過疎化したニューヨークの街を歩いたあとに、レイブパーティが現れたり! あのときって海外でも、クラブにいけない代わりに倉庫とか辺鄙な場所でパーティをするしかないってなってたので。要するにファンタジーの世界ではなくて、当時の日常がそのまま延長線上的にメタバースに拡張されていて、かつメッセージ性があったから溶け込めたのかな。
2. 着るという概念を改める、バーチャルファッション。
それでは、ここから実際に“着るもの”であるファッションと、メタバースの関わりについて話を広げていきたいと思うのですが… この手の話題になると「フィジカルで楽しめないなら意味がない、服とは言えない」という意見が引き合いに出ることがありますが、おふたりはどう思いますか?
フィジカル以外でもファッションを楽しめる機会が増えたのはいいことですよね。〈バレンシア〉が先ほどのコレクション発表のあと、2021年9月にゲーム「フォートナイト」でスキン(アバター用の洋服)を出していたことも話題になって、もともとゲーム内に親しんでいた人たちに新たな方法でファッションが浸透していく熱気はあったと思います。でも一方で、私含めてもともとゲームに接点がないファッション畑の人がその流れに入っていけるかっていうと、多分それは流れが違うのかなとは思います。
それで言うと、AR(現実の風景に合成で情報を加える技術)のファッションはどうでしょうか?
それについては、新しい選択肢だなという肯定的な目で見てます! こういう経済状況もありますし、リアルで高い服を継続的に買う人たちは世代関係なく少なくなってると思うので、そうしたなかでメタバースの世界でファッションを楽しむのは全然あり得ることなんじゃないのかなと。
実際に撮影した自分の写真など実在するものとミックスして楽しめるバーチャルファッションが盛り上がれば、より抵抗なく受け入れられる人が増えるかもしれませんね。
あとリアルでのファッションのおもしろさってどんな装いであれ、着こなしからその人らしさがにじみ出てることにあると思うんですよね。それはスタイリングかもしれないし、ブランドの組み合わせかもしれないしさまざまで。パーティやショーなどいろいろな人がいるなかで、決して奇抜な格好でなくともそういう人って光って見えるんですよね。もしバーチャルのイベントでも、そういう着こなしをしたいと思う気持ちになるくらいの場があったら、バーチャル上でも張り切っておしゃれするきっかけになるかもしれませんね。
なるほど!
「このドレス、どこで買ったの?」といったコミュニケーションが発生するだろうし。そんな偶発的な状況や熱気とか、そこでしか得られない体験になるものがあれば、きっとファッションの人たちもバーチャルファッションに手を伸ばして行けるのかなと。
そのアイテムが、バーチャルだからこそ実現するようなデザインのものだったら、より意味がありそうですね! 僕的には自分のアイデンティティを構築するものがファッションだとしたときに、メタバース上で着ているお気に入りのファッションを切り抜いてインスタグラムに乗せて発信するのだってリアルなんじゃないかって思います。トレンドについていくために服を頻繁に買って、SNSで投稿し終えたらもう着なくなるってことが起こるくらいなら、そっちの方がむしろリアリティがある。
確かにそれだったら、ARデータで服を買って合成した写真を投稿した方がサステナブルだし最先端かも?
コロナ禍でファッションを楽しんで外出する機会が少なくなって、かつモノコトの消費サイクルが速くなっているいま、映えを重視するなら、服を買うよりもデータで買った方がサステナブルなのかなとは思います。かといってNFT※はブロックチェーンを24時間確認するマイニングというシステムに大量の電力を要するので環境負荷が決してゼロなわけではないから、ユーザー数が増えたら果たしてどっちが正解なのかは長い目で見ないとわかりませんが。
イーサリアムというプラットフォームは先日のアップデートで99.9%のCO2削減を実現したそうですよ! 将来的にはもっと確実に改善していくんじゃないかな? とは言え現状エネルギーを食ってるのは確かですが。
これからNFTに手を出していくなら、プラットフォーム選びの指針としてそういった面についても知っておくべきなんですね。では話を戻しますが、バーチャルファッションで、気になるブランドはありますか?
〈ハトラ(HATRA)〉がコレクションの発表をARでのバーチャル展示でやってたのはおもしろかったよね。
服が宙に浮いてたよね! 国内ブランドのなかでは早い取り組みだったような。
あとやっぱり先端を行ってるのは〈クロマ(chloma)〉。あれはメタバースが社会的に注目される前からアバター用の服を作ってた。そこから同じ型の服を現実でも販売していたりっていう逆発想的なドメスティックブランドで、この界隈では先駆者的な存在です。
アバター用ということは、何かのゲーム上で着られるということですか?
基本「VRChat」上かな。それだけじゃなくUnityっていうソフトウェアと合わせればVTuber(アバターを使って動画配信をする人)としても使えるものだったり、データとして売られてるイメージ!
なるほど。
それとニュースになっていたのは、2021年頃に「Vケット」っていう「VRChat」上でやってるマーケットにNIGO®️さんが出店してたことですかね。あとは〈グッチ(GUCCI)〉が「テニスクラッシュ」というゲームのアバター用のウェアやシューズをデザインしていたり、それこそ〈バレンシアガ〉が「フォートナイト」とコラボしていたり、意外とハイブランドがメタバースに対して前向きになのが気になります。
ハイブランドはkaki君が言ってくれた通りで、メタバースに馴染みのある10代、20代の新規層をターゲットにしている流れがありますね。2010年代にメゾンブランドからトレンドが生まれるようなトップダウンの構造がストリートの流れによって打ち壊されて、Tシャツやスニーカーなど手に取りやすいものがブランドをストリートに普及する手立てになってたのですが、いよいよそのネクストレベルがゲームなどメタバース上のファッションになっているのかなと思います。
ハイブランドがメタバース上での取り組みを始めたときに、〈アンブッシュ(AMBUSH®)〉然り、NFTを展開していたと思うのですが、NFTとファッションの関係性については何か意見ありますか? 個人的にはレアもののスニーカーのように、“所有すること”に対する価値感がマッチしていたのかなと思いましたが。
2010年頃にファッションの民主化が起きてスニーカーブームが来たときも、履くよりは家に飾っておくみたいな欲求が強かったから、〈アーティファクト(RTFKT)〉とかもその流れを応用をしたものなんだなとは思いました。そこからNFTの勢いも落ち着いてきて、いまは〈アンブッシュ(AMBUSH®)〉の取り組みのように、やっぱりリアルの世界と似てコミュニティ形成がキーになってきていますよね。
熱気を帯びてそのようにコミュニティが生まれる背景には、従来のハイブランドとストリートブランドという区分けとはまた別のラインで出てきているのかなとも思いますね。先程話したファッションでストリートウェアが普及した後で、次に人々が新しく目指していくモノやトレンドが必要になってきたときに、いまはNFTがそのポジションのひとつになっているのかなと。家の大きさに関係せずに所有できるし、世界どこでも手に入れられたりするので、より民主化の規模は広がっていきやすいのではないでしょうか。
3. もはやバブル状態? NFTアートの現在。
NFTとは
偽造できない所有証明書付きのデジタルデータのこと。アートと紐つけて言えば、簡単にコピーできないので世界でたったひとつのデジタルアートとして価値を持つことが可能になる。また一度購入したアイテムを自由に転売することもできるが、その際はクリエイターにも収益が入る仕組みになっているので透明性が高い。
ここでいま一度、NFTアートについておさらいさせてください。定義自体は理解できるのですが結局のところ、これまでのデジタルアートとの大きな違いはなんなのでしょうか? kaki先生、解説をお願いいたします。
いままでデジタルアーティストの多くは、広告や商業目的のために制作をすることが主な収益となっていたのが、NFTの登場により、純粋なデジタル上での作品として販売することでマネタイズできるようになりました。同時に、買い手も一点一点を唯一無二の作品として所有でき、価値付けできたり… 他にも多くのメリットはありますが、大きな特徴は以上の通りです。
誰でもクリエイターになれる時代って言われてるけど、kakiくんは作り手としてどう感じている?
ピュアに表現を通しアーティストとしてマネタイズでき、成功していけるという点においては、おもしろいし、そうあるべきだなと思ってます。一方で、いまのNFT周りの状況ってプラットフォーム化しすぎてるなとも感じています。NFTアートと名乗ればそれっぽくなるというか…。
それは誰もが使える民主化された状況がそうさせているということでしょうか?
それもそうだし、いまはある種「NFTを使えばすぐにお金が儲かるかもしれない」といった具合に、バブル状態に陥ってる感じがしますね。これはあくまでもツールでしかないから、そのツールを使ってどう表現していくかを考えることで、よりNFTならではのおもしろい作品が生まれるんじゃないでしょうか? 例えば、パフォーマンスアートという一過性の芸術作品をどう所有物として表現できるんだろう? とか、そういう使い方がよりアートの進化につながると思うけど、それがいまは停滞してるな〜 という印象ですね。
kakiくんは実際にNFTアートを買ったりする?
まだ買ったことはないんですが実は先日、NFTアートを集めた展示に参加しました。
それはオンライン上でですか?
都内にあるスペースを借りて、ディスプレイで展示してましたよ!
NFTアートの活用方法について、芸術作品を発表するツールとして以外の使い道はあるのでしょうか? 例えばある作品を購入することでどこかへ寄付できるとか?
それで言うと、2021年にロシアのアクティヴィスト集団プッシー・ライオットが初めてリリースしたNFT作品で売り上げた100イーサリアム(約2000万円相当)を活動資金と女性のためのシェルター支援に当てていたましたね。その後も、プッシー・ライオットの創設メンバーであるナジェージダ・トロコンニコワは、Trippy LabsとPleasrDAOのメンバーとともに、ロシアの侵攻開始の一日後にウクライナを支援するために分散型自律組織「ウクライナDAO」を立ち上げていて。そこでは ウクライナの国旗が描かれたNFT作品をリリースし、640万ドル(2022年3月時点)の売り上げを非営利団体「Come Back Live」に寄付していました。
そうなんですね! 寄付した証明がアートとして手元に残ってSNSに投稿できれば、赤い羽根募金のような感覚で社会的ポジションを示す物差しとしても使えそうですね。
そうですね。寄付した理由は人によってさまざまだと思うので、SNSなど公に表明するか否かの個々人の自由性をうまく残しつつ、一過性の熱量として消化されずに新たな持続的可能な寄付システムとして機能していけるといいですよね。
4. 本人に訊く、バーチャルヒューマンという存在。
さて、ここからはメタバースの話をするには欠かせられないバーチャルヒューマンについて話していければと思います。
性別や国籍、年齢など現実では物理的に制限があるものを飛び越えたまったく新しい存在を創造できるといった点で、僕は可能性を感じてます! まったく新しい社会や生態系を生み出せるんじゃないでしょうか。
ファッションの文脈だと、バーチャルヒューマンが生まれる前に、〈ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)〉が2016年春夏キャンペーンビジュアルのモデルに「ファイナルファンタジー」シリーズのヒロイン、ライトニングを起用していたことがあって、それはかなり印象的でしたね。
それはどんな流れで?
2015年春夏シーズン頃から、〈グッチ〉に新たなクリエイティブディレクターが就任したり、〈ヴェトモン(VETEMENTS)〉が登場して。そのあたりから先ほど話した従来のファッションの構造が少しずつ変容し始めて、美意識も更新され始めたんですよね。いまでは当たり前になりましたが、ストリートキャスティングもこの頃から始まったように思います。そこに、もともとSF好きという背景をもつニコラ・ジェスキエールは、新たなモデル像としてライトニングを選んだんじゃないかと。ショーのファーストルックでも、当時ピンクヘアが印象的だったモデルのフェルナンダ・リーが登場していました。個人的には、そのタイミングからファッションのなかでのバーチャルヒューマンのモデルとしての扱いが始まったなという印象です。
それを踏まえると技術の進歩で突如として生まれた存在であるだけではなく、多様性を超えた新しい人間像として社会的に必要とされていたのかなと思います。
ますます個の力が大きくなっていくなかで、現代社会の多様性を超越したバーチャルヒューマンやインフルエンサーが情報をフレクシブルに発信していけたら、それはかなり強いですよね。
話は逸れますが、極論SNS上の人間ってもはやバーチャルじゃないですか? フィルターを使えば別人になれたり、自分っていうアイデンティティをより強固にしたいがために、仮想の、つまりはバーチャルな自分を作りあげてますよね。
仮想空間上の自分を作りあげることって、ある種“盛っている”とネガティブな捉え方がされることが多いですが、それだけで片付けてしまってはもったいないのかなと思うのですがどうでしょうか? そのいい例がまさにバーチャルアーティストのte’resaちゃんだったりするんじゃないかと。
まさにそうだと思う! 場面に合わせていろんな役割をコントロールするのが現代人の特徴だと言われてるんです。会社にいるときはこう、家族の前ではこう、友達といるときはこういう自分… といった感じに役割をうまく使い分けていて、それと同じようにインターネット上の自分もれっきとしたひとりの自分なんですよね。
そう考えると、その拡張機能を駆使しながら自由にアーティスト活動をできているte’resaちゃんって、かなり現代に順応したスタイルを取っているということになりますね。
そもそも彼女がどうしてバーチャルヒューマンというフォーマットを選んでアーティスト活動を始めたのかっていうところも気になります。
今回は、そんなバーチャルヒューマンという概念について掘り下げていくべく、本人にお越しいただきました!
te’resaちゃん、よろしくお願いします!
よろしくお願いします!
まずは、音楽活動をしていくに当たって、リアルな人間としてではなく、バーチャルヒューマンとして始めようと思ったきっかけを教えてください。
先程も話題に上がっていた通り、まさに国籍や性別とさまざまなアイデンティティの障壁がある現実世界で、よりバイアスがかからず自由な表現で幅広い方に私の音楽を聞いてもらいたいという思いをきっかけに、バーチャルヒューマンとしての活動をスタートしました。LAに住んでいたこともあるのですが、そのときにもやっぱり差別みたいなものはあって。そういう実体験も経て、バーチャル上の自分という形で新しいイメージを作れば何か変われるんじゃないかと。
その選択をしたことで広がった可能性はありますか?
こういう鼎談に呼んでくださることがまさに、バーチャルでよかったなと思います(笑)。音楽というジャンルを越えて色々な方と交わる機会があるのもこの姿だからなのかなって。あとは、ライブなどいままでにない新しい形で挑戦できているのがすごくうれしいです。すべてバーチャルの世界のなかで歌うという、本当にRPGゲームのような世界観なのですが、そういったトライはこの姿を選んでいなかったらできていなかったです。
逆にバーチャルであるがゆえに感じる障壁も?
バーチャルの姿だから注目してくださる方がいるんですが、逆にこの姿だからまったく興味を持ってもらえないということもあります。人間とテクノロジーってもうかなり密接なものなのに、そこのハードルが高いなと感じて寂しくなるときはまだまだあります。
バーチャルアーティストとしてのte’resaさんと、リアルのte’resaさんで「ここだけは芯を通して変えたくない」という点はありますか? また、異なる点は?
共通点は、音楽が好きというところ! 曲によってメッセージは違えど“音楽を通じて伝えていく”というところは一貫していると思います。そして愛を持って生きていきたいというところも自分らしいところかなと思います。現実世界と異なる点は… もっとモノトーンで大人な洋服も着ます!(笑)
僕がひとつ気になったのは、VTuberやバーチャルアーティストは、これまで元祖の初音ミクさん然り、オタク文化の文脈から生まれるものが多かったですが、te’resaさんはまたそことは違う文脈で活動されているなと。例えばNTsKiさんなどカルチャーシーンで活躍してる方に楽曲提供してもらっていたり。そこで意識していることがあればお聞きしたいです!
「色んな壁を越えていきたい、その間にいるような存在になる」というテーマを私のプロデュースチームが最初に大きく掲げてくださって、それは私も共感した部分だったので、あえてバーチャルに偏らずリアルなアーティストとのコラボや楽曲提供も積極的に行ってました。いまは逆にピーナッツくんとか尖りバーチャル勢もいらっしゃるので、そういった方々とも共演してみたいとこっそり思っています…!
いちアーティストとして音楽活動していくにあたり、今後人々のなかで「こんな存在でありたい」などビジョンはありますか?
実は、誰だってte’resaの姿を使って活動できたらいいなと思ったりもしています。アバター的かつ、それこそ初音ミクさん的な考え方なのですが。いつでも誰でも仮の姿を使ってでも発信する勇気とか、だからこそできる表現とか、そういう可能性を感じとってもらえたら、バーチャルとして存在する意味があるかなと思います。
そんなte’resaさん自身、メタバースやバーチャルに対してはどんな思いを抱いていますか?
まさにみなさんが話されてたように、いろんな障壁を越えて通じ合える世界だと思うので、これからもっとたくさん新しいカルチャーが生まれるだろうなとすごく楽しみです! あと見た目の概念が変わっていくのかなど… どんな見た目だろうと生きやすくなるのか、そこに関してはいまと変わらないのかとか気になります。
それでは最後に、今後の活動で挑戦したいことをお教えてください。
バーチャルというところに囚われず、音楽をもっと色んな人に聞いてもらえるように頑張っていきたいです。そして、メタバースという世界線に向けて何かトライできることがあったら積極的にしたいなと思ってます!
5. 未来について。今後どう付き合っていくべき?
最後にWEB3.0と呼ばれる世界は今後どうなっていくのか、またどううまく付き合っていけばいいのかについて考察していきたいです。
よく言われるのが「女子高生はVRゴーグルをつけない」ということなんですけど、なんでかっていうと顔にあんなでかい装置をつけることが日常生活で想像できないから。正直、VRゴーグルって化粧する人たちからすると相反するあり得ない装置だし。だけどそう言ったなかでどうやってメタバースが日常的にも社会的にも受け入れられていくかというと、どうしても技術の進歩が必要になってくるんですよね。
例えば?
スマホがいまよりもハイスペックになっていったらゴーグルを使わずともそこからメタバースにアクセスできるようになるかもしれないし、むしろスマホがもっと脳や身体に近づいてメガネ型になっていくこともありえるかも?
そうしたら、いよいよムーンショット計画が実行されそうですね…!
そうですね。もちろんそれには時間もかかりますし、倫理的な問題もあると思いますが。漫画、アニメにもなっている『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』の世界には脳をコンピューター化した“電脳”というテクノロジーが存在しますが、出版、放送された当時こそSFとして消費されていた物語が、現実になる可能性も全然あると思います。
確かに実現したら、それこそ価値観や倫理観がアップデートされて、いよいよ新次元の世界が始まりそうですが… それがもうすぐそこまで迫っていると思うとすごい時代ですね。
あとは僕たちよりももっと下の世代の「フォートナイト」ネイティブの子たちが、将来大人になってモノを生み出していく番になったとき、どんな世界をデザインしていくのか気になります。テクノロジーって進化していくから可能性を潰さないで探求し信じていくことが大事なんですよね。
私もkakiくんと同じく、デバイス次第だなと思いますね。もうちょっとハードルが低ければ、自分が行けなくて後悔したショーや、パーティも行きやすかっただろうなと。オンラインショッピングでも、ただ画像を見るだけでなくて、そこの向こう側に何か別の動きがあって、新しいショッピング体験ができるように進化していけるように様々なサービスは生まれていますよね。
テクノロジーが進むことでいままでフィジカル至上主義だった層にもバーチャルな暮らしが受け入れられる可能性は広がるかもしれませんね。
すでにリアルもバーチャルも分け隔てなくパラレルワールドになっていますが、シチュエーションと目的に合わせて両方でうまく体験を楽しめるようになるといいですよね。世のなかのリアルな店舗が消えてオンラインショップだけの世界になるのも寂しいですし。
もっとフレクシブルに付き合っていけばいいんじゃないですかね。ひと昔前は「出会い系」って言葉があって、教育上でもSNSで出会った人とリアルで交流することをタブーにする風潮があったのが、いまはティンダーとかペアーズとかを使うのは当たり前になっているみたいに、今後もあらゆるバーチャルプラットフォームの名称や設計からブランディングまでがポジティブにデザインされていくと思います。
捉え方をアップデートしていくイメージですかね?
そうそう、それが民主化への一歩に繋がっていくと思う。未来について考えていくときに抱くべきはそういうマインドセットであって、それが人間を進化させていくのではないでしょうか。もはやメタバースって言葉もいずれはなくなって、まったく新しいワードになるかもしれない!