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現実とバーチャルに挟まれたカオスな時代に、 フィリップ・クスティックが表現したいこと。
現実とバーチャルに挟まれたカオスな時代に、 フィリップ・クスティックが表現したいこと。

Chaotic Time Aesthetic.

現実とバーチャルに挟まれたカオスな時代に、
フィリップ・クスティックが表現したいこと。

2023.04.21

インターネット文化に焦点を当て活動するスペイン人アーティストのフィリップ・クスティック。
インスタグラムにフェイスフィルター機能が誕生したときにはいち早く作品を投稿していたり
一度は見たことある、という方も多いはず。(現代人あるある!?)
今回は「PARCO MUSEUM TOKYO」で開催中の日本での初個展を機に、インタビューを敢行。
一緒に話を聞いたのは以前「メタバース鼎談」に参加してくれたJACKSON kakiくん。
テクノロジーの進化が目まぐるしい現代社会で人間のアイデンティティにはどんな変化が起こってる?
作品テーマを深堀りし、そしてその楽しみ方について探りました。

  • フィリップ・クスティック
    スペイン出身の現代アーティスト。身体、心、そしてテクノロジーの関係性、またそれらが人間のアイデンティティにどう影響しているかについて作品を通して探求している。

  • JACKSON kaki
    3DCGアーティスト。フィリップのことはインスタグラムを通して知る。現在、情報科学芸術大学院大学に在籍し、インターネット・メタバースの身体について研究中。フィリップの関心領域と重なり、今回はインタビュアーとして参加。

Kaki:はじめまして、僕は3DCGアーティストのJACKSON kakiです。フィリップの作品はインスタグラム上でフェイスフィルターや、ロザリアやリル・ナズ・Xのアートワークを見て知ってたから、今回日本で初めて作品を目にすることができて嬉しいです!

フィリップ:ありがとう。君も同じくアーティストなんだね?

Kaki: 僕はいま大学院でVR、メタバース、芸術などの研究をしながら、実際にアーティストとしても活動してます。フィリップの作品にもインターネット文化やテクノロジーの進化が大事な要素になっていて、自分の作品とも近いテーマ性を感じてます。

フィリップ:そうなんだ!

kaki:早速ですが、まずは作品について聞く前に。そもそも日常生活のなかで、フィリップにとってインターネットやテクノロジーはどういう存在なんでしょうか?

フィリップ:インターネット自体は、自分が物心がついたころからすでにあったものだから、あまり「こういう存在だ」と意識して考えたことはなくて。それがない時代を知らないから、とくに特別な感情は抱いてないんだよね。

kaki:うん、僕もだな。生まれたときから家にPCがあったから。では質問を変えて、インターネットが発展して、周辺デバイスも発達し、ソーシャルメディアが生まれて、そんな進化が目まぐるしい時代のなかで、フィリップがテクノロジーを使ってアートを作る意義とは?

フィリップ:テクノロジーは、この時代に生きてる私たちだけが持てる“新鮮なアイデア”であり、“新しい可能性”だから。例えば油絵とか、何千年も前から使われている既存の手段でアートをやる必要は自分にはないと思ってるんだ。もしペインティングするとしても、新しいテクノロジーを融合して表現をすることに挑戦したいんだ。今回発表した新しい彫刻作品も実は3Dプリンターを使って作ったもの。従来の彫刻とは違う手段を使って、とにかく新しいものを作りたいんだ。

kaki:今回の個展の話でいうと、身体、心、そしてテクノロジーがどう人間のアイデンティティに影響しているかがテーマになっていると思うのですが、それについて詳しく教えてください。

フィリップ:人間の精神的発展と、テクノロジーの進化は密接に関係しているんじゃないかなと思ってて。情報がひっきりなしに流れてきて、知りたいことはすぐに調べられて、それが自分の心理状況や他者との繋がりにも深く関わってきているから、作品を通してそういうことを自分なりに表現してみたんだ。

kaki:ある種、技術の発展以前の時代は宗教や神話が中心になって人間そのもののアイデンティティに影響を与えていたけど、いまはそれらに代わってテクノロジーの発展が人間の進化に影響をしていて、おもしろいですよね。

フィリップ:まさにそう思うよ。

kaki:例えば、いままでコミュニケーションの手段が文字や言葉だったのに対して、TIkTokやインスタグラムが誕生したいまは、画面上を通した身体を使ったコミュニケーションがあたり前になり、実はそれが僕たちの身体性やアイデンティティにも大きな変化をもたらしているかもしれないし。

フィリップ:ソーシャルメディア上でアバターを作って新しい身体を持てたり、ときには動物とミックスだってできたり、インターネットを通してより自分の存在を抽象的な形で考えるようになったし、表現方法もたくさん生まれたよね。

kaki:作品のなかではどういう視点で、それらを表現していますか?

フィリップ:僕自身、これまで生きてきたなかで何度もアイデンティティを変えてきたから、この作品のなかではフェイスフィルターなど過去の自分の作品や顔そのものを着せ替え人形のように取り外して遊べるスカルプチャーとして表現しているんだ。情報とテクノロジーにあふれ自分自身をいつでもアップデートできてしまう社会のなかで、常に自分が何者であるかは疑問に思うことが大事だからね。

kaki:鑑賞者にはどんな視点を持って楽しんで欲しいですか?

フィリップ:新しいテクノロジーやインターネット文化がテーマになっているからと言って、事前知識とかはまったくいらなくて、逆に観ることでその人の常識を覆せたら嬉しいし、その“気づき”を楽しんで欲しいかな。“なんでバッグのなかに映像が流れてるの? ”とか“なんであんなポーズで人が組まれてるの? ”とかね。

kaki:最後に、VR、メタバースと言った新次元のバーチャルテクノロジーの進化について、期待することはありますか?

フィリップ:未来がどうなっていくかをあまり考えないようにしてるけど、いまこの瞬間がとにかく特別な時代に感じてるよ。リアリティとバーチャルの狭間の過渡期にいるから、それ自体がカオスでおもしろいし、美しいと思う。現実にないものを仮想世界に求めているのに、仮想世界が逆にリアルなものを作ろうとしていたり! フェイスフィルターを顔にプロジェクションマッピングしている作品とかもまさにそう。しばらくはこの真ん中にいられる時代を楽しみたいかな。

kaki:そういえば、今日はフィリップさんが作ったインスタグラムのフェイスフィルターで写真を撮りたいと思ってたんですが、見つからなくて。まだありますか?

フィリップ:実は運営に消されちゃったんだよね。

kaki:それは残念ですね。

フィリップ:そうなんだ… でももう気にしてない! デジタルの世界ではこんなことが起こるから、やっぱり現実世界でフェイスマッピングしてる方がいいかもね(笑) 。いつかまたタイミングがあったら作れたらいいな。

最後に、kakiくんのお気に入りの作品の前でツーショット。
kaki「インターネット上のあなたの周りにあるものが、僕たちの身体にどのように影響を与えるのか、そんなことを考える作品でした。」