展示をめぐり語る、NAZEとxiangyuの現在地。


Gallery Talk
展示をめぐり語る、NAZEとxiangyuの現在地。
2025.10.07
月極ギャラリーにて開催中の展示『TORI MODOSHITAI』をきっかけに実現した、
アーティストNAZEとミュージシャンxiangyuの対談。
転換期を迎えたふたりが語る、いまのこと、これからのこと。
Photography: Takao Okb

NAZE(ナゼ)
グラフィティやロウブローアート、自身のバックグラウンドに影響を受けた繊細なドローイング、スプレーやアクリルを用いたペインティング、廃棄物を使ったオブジェ、テキスタイルワークやインスタレーションなど多彩な作品を制作する。時にContact Gonzoのメンバーとしても活動。Instagram:@naze.989

xiangyu(シャンユー)
2018年9月からライブ活動開始。日本の女性ソロアーティスト。読み方はシャンユー。名前は本名が由来となっている。23年11月、gimgigamをサウンドプロデュースに迎えAmapiano、Gqomなどを取り入れ、町に落ちている“落とし物”を題材にしたコンセプトEP『OTO-SHIMONO』をリリース。24年は“遠慮のかたまり”をテーマに楽曲を制作。「ラスイチのピザ」「ずっといるトマト」ではボルチモアブレイクス、バイレファンキなどを取り入れた新しいサウンドを追求している。25年4月には七尾旅人、Kuro(TAMTAM)を迎えたアルバム「遠慮のかたまり」をリリース。Instagram:@@xiangyu_dayo
はじまりは、共感から
- ― 今回は展示『TORI MODOSHITAI』をきっかけに、アーティストのNAZEさんとミュージシャンのxiangyuさんにお集まりいただきました! おふたりは普段から交流があるそうですが、まずは出会いについて聞かせてください。
- xiangyu:「面白いアーティストがいるよ」って共通の知人に聞いて、作品を見せてもらったのが最初でした。私、落とし物とか遠慮のかたまりみたいな、日常のちょっとしたものをテーマに曲を作ることが多くて。NAZEくんの作品にも、そういう見過ごされがちな瞬間が描かれていて、初めて見たときに「あ、わかる」って思いました。
- NAZE:最初から感覚が近いなって思いましたね。そのあとライブや展示でも顔を合わせることが増えて、ポップアップをやったり、タコスパーティーに行ったり。


ふたりの共作について
- ー xiangyuさんの楽曲「とか言って(feat. Sawa Angstrom)」のアートワークをNAZEさんが手がけていましたね。おふたりの共作の始まりについて、聞かせてください。
- xiangyu:いつかアートワークをお願いしたいと思っていて、「とか言って(feat.Sawa Angstrom) 」は合うかもって直感で声をかけました。

※キュートちゃん:NAZEの作品に登場するキャラクター
- NAZE:曲を聴いた瞬間、すぐに絵が浮かびました。普段描いているキャラクター、キュートちゃんが自然と出てきて、歌詞の中にある「水を飲む」というフレーズと重なったんです。だから、「水を飲むキュートちゃん」をそのまま描きました。
- xiangyu:水を飲むって、私にとっては間をやさしく埋める行為なんです。絵を見たとき、「まさに頭の中そのまま!」って思いました。言葉にしなくても通じた気がしましたね。
- NAZE:たぶん同じ瞬間を描いてたんだと思う。

展示「TORI MODOSHITAI」をめぐって
- ー 続いて、NAZEさんの展示『TORI MODOSHITAI』について。今回のテーマをどんな気持ちで描き始めましたか?

- NAZE:いまの自分をちゃんと見せたいと思ったんです。制作を続ける中で、”初期衝動を取り戻したい”という気持ちがずっとあって。それをテーマに描きはじめました。
- ータイトル『TORI MODOSHITAI』に込めた思いは?
- NAZE:「取り戻したい」という言葉に、自分の中の衝動を重ねています。あと、飼っている文鳥の「鳥を戻したい」という言葉遊びも(笑)。最初は衝動を意識的に掴もうとしてたけど、描くうちに「衝動って意識して戻すものじゃない」と気づいて。塗り重ねるうちに、冷静な頭と燃える心、そのはざまにいる自分が浮かび上がってきました。
- ーxiangyuさんは展示を見て、どう思いましたか?
- xiangyu:展示を見たとき、正直ちょっと辛かったです。脱皮してる感じがして、それが羨ましくて、刺さって、なんか嫌になっちゃった(笑)。でもそれくらいエネルギーがすごかった。


- ーNAZEさんがご自身で気に入ってる作品を教えてください。
- NAZE:150号の大きなキャンバスの作品ですね。会期中も何度も描き直して、これがいまの自分だと思えたのは最後の瞬間だけ。あの絵には、自分の葛藤と整理がそのまま出ていると思います。
“リトルNAZE”がささやく
- ― 表現を続けるなかで感じる怖さや変化はありますか?
- NAZE:キュートちゃんの絵が人気になると、描けなくなっちゃうんです(笑)。なんか、「それでいいのか?」って“リトルNAZE”が出てきて。「もっと暗くて、もっと陰気でもいいだろ」って。

- xiangyu:私も曲を作る時に、今までの自分に引っ張られすぎて、新しいものを作るのが怖いときがある。でも、変わらなきゃって思う瞬間もあって。今回の展示を見て、その怖さを超えるのがすごいなって思いました。

誰かに話すほどでもない気持ち。
- ― 日常の中で感じた違和感や感情を、どうやって作品につなげているのでしょうか?
- xiangyu:SNSで思ったことをつぶやくのが苦手なんです。でも、誰かに話すほどでもないけどなんか言いたいことってあるじゃないですか。そういう小さな日常のピースを曲にして昇華させています。
- NAZE:僕も一緒です。「これ良くない?」って思ったものを絵にして、人と話すきっかけにしたい。表現方法は違うけど、日常の中の小さな引っかかりを形にしてるのは同じかも。

これからのこと
- ー 最後に、これからのことを聞かせてください。次にふたりでやってみたいこと、気になっていることはありますか?
- xiangyu:また山いく?川で魚釣って、串焼きにして食べるとか。
- NAZE:最高(笑)。僕らは作るために集まるタイプじゃなくて、遊んでる中から自然に生まれるタイプだから。山とか川のほうが、むしろいい作品ができそう。
- xiangyu:うん、それがいちばん自然。


INFORMATION
NAZE『TORI MODOSHITAI』
会期:9月20日(土)〜 10月13日(月)※月休廊(10月13日のみオープン)
開場時間:14:00 〜 20:00(月/水/木/金/土)13:00 〜 19:00(日)
入場:無料
会場:月極
住所:東京都目黒区中央町1丁目3-2 B1
公式サイト
Instagram:@tsukigime.space