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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#21『ビリーブ 未来への大逆転』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#21『ビリーブ 未来への大逆転』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#21『ビリーブ 未来への大逆転』

2019.03.22

おもしろい映画しか紹介しない、どこからどう読んでもいい映画コラム。
今回は『ビリーブ 未来への大逆転』です。
フェリシティ・ジョーンズが、現役かつ最高齢のアメリカ最高裁判事を演じる…
アメリカならこれだけで「すごい映画なんだね」と言われるらしいが
アメリカ人じゃなくてもすごさがわかるように半ばネタバレつつ深掘り気味にご紹介します。
今回はフェリシティ・ジョーンズのインタビューもありますよ!

Text_Kyoko Endo

美しいフェリシティの中身はルースのように知的でパワフル。たいていのインタビュイーは、質問されたら少し考えて答えたりするものなのだけれど、その答えが出てくる時間が驚異的に短いのです。頭の回転が早い上に、きっといつも作品の背景について考えているのでしょう。『ビリーブ 未来への大逆転』についてのインタビューだったのではありますが、まるでルース・ギンズバーグ判事ご本人と話しているかのような硬派な内容になりました。

ー映画素晴らしかったです。今までにもあなたはジェーン・ホーキングなど実在の人物を演じてこられましたが、今回はどこがどのように違いましたか?
フェリシティ・ジョーンズ(以下フェリシティ):いちばん大きな違いは…ジェーン・ホーキングを演じたときとも似ているんだけど、実在の人物を演じることにはとくに気をつけなくてはならない責任があるということ。彼女が陥った環境を理解してどうしてそのときそうしなくてはならなかったか理解することかしら。その理解からストーリーが生まれたりするわ。
ールースは存命中ですし、しかもメディアに頻繁に登場する人物ですよね。
フェリシティ:その通りなのよ! 彼女は文化的なアイコンだし、何を見ても彼女の名前が出てくる。すごいプレッシャーだったし、最初に彼女に会ったとき、彼女はアメリカ人なのにイギリス女王みたいだった。威厳があって、すごい存在感だった。彼女は努力してそうなったんだから、私も彼女を演じるのに見合う努力をしたいと思ったわ。
ーとくに気を配られたのはどんなところですか?
フェリシティ:彼女のフラストレーションとか怒りや失望に真剣に向き合うこと。成功してもすぐまた苦闘がやってきたことが彼女の顔からわかるわ。だからこそ彼女は自信があるし、それは彼女自身の努力の結果なの。
ーしかも理性的で、怒りを感じても感情的にわめいたりしませんよね。
フェリシティ:彼女はいつも大変な思いをしていたと思う。でも60年代の法廷で感情的になっていたら、もっと逆境に陥っていたでしょう。だから彼女は公的な自分と私的な自分を分けて、私的な自分を注意深く守っていたんじゃないかしら。すごく繊細な領域――当時のアメリカでジェンダーポリティクスを扱わなくてはならなかったわけだから、そして彼女はすごく大きな変化が起きていることをわかっていて、ゆっくりと注意深く人々を味方にしていったの。静かな闘士みたいにね。
ー今回年齢に幅のある役を演じられたのもすごく大変だったと思うのですけれども。
フェリシティ:私はすごく楽しかったわ。どのように彼女が変わっていくかを表現したくて、どのように世界に対して開かれて行くか、彼女は最初はすごく楽観的で、でもがっかりさせられて、そうしていかにしていまのような彼女になったかっていうことがわかるの。それを演じるのは素敵だったわ。最初はまったく社会に対してイノセントなのよね。
ー彼女の人生を追体験しているような感じだったんでしょうか。
フェリシティ:本当に素敵な人生よね。あの仕事に就いてからは特にね。だから撮影の数ヶ月は楽しかったわ。彼女の人生に入り込んで、彼女の影響を受けて。私はちょっと自信がなかったし弱いところもあって、じつはシャイだったんだけれど、彼女もシャイだったのにパブリックスピーキングを学んで書き方も学んだでしょう。私もパブリックスピーキングを学んでいい経験になったわ。言葉にはすごい力があるのよ。
ー裁判のリハーサルをしているシーンがありましたね。
フェリシティ:その通りよ。ああいうことを一生懸命やっていたから、準備ができていてうまく行ったのよ。彼女は仕事に対してすごく真面目なのよね。
ーではちょっと軽い質問です。アーミー・ハマーが夫役で、しかも妻の仕事を積極的に応援して家事もしてくれる。理想的で羨ましすぎるんですが。アーミーとの共演はいかがでしたか?
フェリシティ:(笑)。すごく楽しかったわ。彼は穏やかで大らかな人で生活を楽しんでいて、仕事の後に一緒にディナーに行ったりしたわ。この作品は社会的な映画で、っていうのは彼の役は男性にとってすごくいい役割モデルになったと思うの。これを見た男の人は男性もリラックスしていいんだと思うと思う。女性と同じく男性もステレオタイプに縛られてるわけだから。女性の権利って結局は人権でしょ。
ー男らしさが求められている時代に妻と一緒に闘っていくのは大変なことだったでしょうね。
フェリシティ:彼らは当時の社会の中では恵まれた立場の人ではあるのよね。才能に恵まれて独立して仕事ができたし。でも伝統的な役割に対して闘った開拓者であることは確かだわ。でもやっぱりマーティン(アーミーの役名)にはルースと一緒に闘う自信もあったと思うの。
ー日本にはいまだにルースが闘ってきたような職場環境で働いている女性もいますが、そんな人たちにどんな言葉をかけてあげたいですか?
フェリシティ:そういう人にも世界を変える強さがあるわ。世界は変化していて、変化に気づいている人も増えて、良くなりつつあると思う。とにかくその女性たち自身にも世界を変える力があるって言ってあげたいわ。自信と希望を持って、って言いたい。結局正義が勝つんだから。
ーただ従うのではなく発言していく重要性がありますね。
フェリシティ:もちろんよ。それに団結したコミュニティを作ることも大事よ。同じ業界にいる女性同士が会って話し合うのも大事だし、人数が集まればより安全になる。そうして人が集まるほど変化も起こしやすくなるわ。
ー作品の中でもルースの娘が「ちゃんと言わなきゃだめよ!」って言うシーンがありましたね。
フェリシティ:そう、ジェーン(ルースの娘)がルースにとっての起爆剤なのよね。娘がルースを前進させ、啓発していく。ある意味、あんな大問題に立ち向かいやすくしているのよね。現実にルースを前進させ続けているし、彼女の存在が母親の動機付けにもなっているの。一人の女性の行動はすべての女性の未来に責任があるの。
ーこの映画のメッセージとして、法律が人のためにあるのであって、人が法律のためにあるのではないということもあると思うんですが、実際に法律によって権利を侵されたとしたら、あなたならどのように闘うと思いますか?
フェリシティ:現実的でいないといけないわね。いちばんパワフルなのは、少しずつ変化を起こすこと。長い闘いになるでしょう。団結も必要だし、誰かを啓発することや、直接会って会話したり、交渉したり、攻撃的にならずに大きな変化を起こす戦略を練るの。そこを強調したいわ。女性差別ということで言えば、若い女性も力を持ちつつあるし、リーダーシップを取るような地位に就く女性も増えてきてはいるけれど、そのためには適切なケアが必要だわ。子育て支援とか、大学教育とか。でないと女性は職場を離れざるを得ないのよ。
ー長い闘いの間で負けたりもしていくときに、どのようにモチベーションを保てばいいんでしょうか?
フェリシティ:希望を持ち続けるしかないわよね。希望こそが変化を起こすものよ。この映画こそそれを描いていると思うのだけど。あとは決意の強さ。でももっと多くの女性が団結しなくてはならないわ。職場での地位向上という点では女性同士協力する必要もあるわ。映画業界は伝統的にすごい男社会なんだけれど、どうしたらより安全な場所でよりよく働けるか、私たちは制作会社に対して団結して要求したわ。
ー女性同士の団結や協力という点では、前の世代の女性たちのなかに、必ず「私たちの世代は我慢したんだからあなたたちも我慢しなさいよ!」って人が出てきたりするものなんですが…。
フェリシティ:技術革新で世界はすごい勢いで変わっているのよ。もう親世代や祖父母世代のころと世界は同じじゃないのよ。年取った世代の人たちは技術革新への恐怖を抱えていて、自分たちがテクノロジーについていけなくて孤立化するんじゃないかっていう恐怖も抱えているから、いろいろコントロールしようとするんじゃないかしら。それでも若い世代にパワーは移っていく。私たちもいかに次世代に豊かさを受け渡すか考えなくてはね。次世代を破壊するのじゃなく(笑)。
ー思いやりがあったら出ないんじゃないかな、って台詞が同性から出たりしますから…。
フェリシティ:だから女性だけじゃなく、男性にも立ち上がってもらわなくてはならないわ。この映画をプロモートすることで、もっと多くの男性や俳優たちがサポートを申し出てくれるといいと思っているの。この映画は、女性の権利のために立ち上がった女性と男性の映画だから。
ーでは最後に。とくにどんな人にこの映画を観てほしいですか?
フェリシティ:それはみんなによ!(笑)そうね、カップルで観に行ってほしいわ。楽しめるし、きっと発見もあるでしょう。