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彼女のダンステリア 須田マリザ / フォトグラファー
彼女のダンステリア 須田マリザ / フォトグラファー 深いバックグラウンドを一枚の写真に込めて。

彼女のダンステリア
須田マリザ / フォトグラファー
深いバックグラウンドを一枚の写真に込めて。

2020.08.14

“ガールとカルチャーがドッキング⁉︎”
これは私たちのアンセム、シンディ・ローパーの日本盤LPレコードの帯にあったキャッチコピーから。
一見むちゃくちゃに読み取れるけど、でもだんだん愛着が湧いてきました。
男子に負けず刺激的なクリエイションを提示する人たち。
編集部員が心からファンになったアーティストと向き合い、
彼女たちが何を思い、何のためにクリエイティブでいるのかについてしっかりと聞いてきました。

須田マリザ、フォトグラファー。「桑沢デザイン研究所」に通いながらアーティスト写真やイベント写真を撮る。ガールフイナムでも「おしゃれな人に訊いた、おしゃれな人。」を始め、「プレスも物欲NONストップ」、「希子ちゃんとレーナちゃんのクィア・アイ対談。」、「Parcelsとロスト・イン・カラオケ。」など多くの企画でお世話になってます!

Instagram @marisatakesshittyphotos

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ーマリザちゃんとは元々友達で、個人的に撮ってた写真の雰囲気がすごく好きだったんですよ。それはインスタグラムに載せてた写真もそうだし、あとはずっと撮影しているCYKのパーティフォトもそうで、見てこみ上げるものがあって。その感覚をガールフイナムのなかでも活かしたくて、まだマリザちゃんがやったことない撮影も一緒に挑戦してきましたよね!
そうですね! 一晩中撮影したブツ撮り企画は大変さが気にならないくらいすごく楽しかったです。
ーいまも専門学校に通っていながらこうしてフォトグラファーとして仕事をする感覚ってどういう感じですか? そもそも目指していました?
写真に興味を持ったのはそんなに早くないと思うけど、もともと映画も音楽も大好きだったからまったくアートやカルチャーとは無縁ってわけでもないのかな…。お母さんの影響で小さい頃から『ポンヌフの恋人』や『バグダッドカフェ』を観ていたので。

古典技法のひとつでもある青写真に挑戦してみました。

ーそのなかでなぜ写真にフォーカスすることになったんですか?
写真自体は高校生のときに写ルンですがまた流行り始めて、それで撮り始めたのかな。何回かやっていたら物足りなくなってフィルムもこだわってみたり機材にもこだわってみたりしたけど、ただ趣味で撮ってるだけで、日常で自分がいいなって思った瞬間をまずは撮り溜めていたんです。だから最初は仕事にしようとは全然思ってなかったな。けど、仕事にどんどん繋がったきっかけはやっぱりCYK! CYKのKotsuさんが「写真撮って欲しい」って言ってくれたところからですね。
ーフォトグラファーとしての経歴がないなかでのオファーだから、Kotsuくんはインスタに載せてる写真を見て声かけたんですかね?
そう、パーティまで一回も会わずに(笑)。それから毎回頼まれるようになって仕事にしたいかもって思い始めました。だからもうKotsuさんにはめちゃくちゃ感謝しています。
ーでもマリザちゃんにお願いしたくなる気持ちはとてもわかります。
たぶん趣味の延長で仕事に繋がってきたから自然体で撮影できていたのかな。ポートレートも決めっきめのポーズをしてもらうより自然と出た表情を撮りたいと思いますし。

令和が始まろうとしているときにあえて平成を振り返るストーリーを撮影しました。

ー年号が令和に変わったときに“平成”をテーマに写真を撮るシリーズがありましたよね? それまで自然体な作品が多かったなかで、テーマを設けて撮影すること自体が新しい挑戦だったんじゃないかなと思って。そこは変化していっているんですか?
この時期はとくに自分の表現の仕方が止まっちゃってるなと感じていていろいろと挑戦しようとしていたんだと思います。いまはモノクロをもっとやりたい。前に見せた気がするんだけど、ジャック・デイヴィスンってファッションフォトグラファーの個人的に撮影している写真が好みで。私とはまったく真逆というか、ああいうこともできたらいいなって思うんです。なんか写真っていうより、構図が好きって話なんですが。
ーモノクロこそ本当に構図が大事になってきますもんね。ジャック・デイヴィスンの作品を見たときに感じたことをもっと教えてもらってもいいですか?
最初は写真美術館のストアで初めて見たんです、そこに彼の本があって。なんかズルい! って思ったんですよ(笑)。でもすごく好きだからこそマネはしたくなくて。
ーズルい! って思う感覚がおもしろいかも。
なんて言えばいいんだろう。こういう表現を先にやっている人がいるのもズルいし…。
ーポートレートを撮るってときに、ジャック・デイヴィスンはこの人のことをこういう風に捉えているんだなみたいな視点がズルいとか…?
そうそうそう! 憧れているんですけどね。そういう写真家になりたいかどうかはわからなくて。
ーそれは「自分でもやってみよう! 」と思うんじゃなくて、こういう人がいるって知れてよかったということ?
かもしれないです。やっぱり自分が撮るのは自然体を撮るほうが楽しいし、好き! だから菊池佑樹さんも憧れています。彼が撮るマック・デ・マルコの写真は被写体とマックコとの関係性があるからこそ引き出せる雰囲気だし、ライブ写真は彼自身が本当に音楽が好きなんだなって写真からしっかりと伝わるんですよ。

いまとなってはこの密度のイベントが恋しい。

ーあのライブでファンを撮ってる写真はすごいですよね。愛が強い! でもマリザちゃんのCYKのパーティ写真からもそれを感じます。
私も本当に音楽が好きだからこそ、ああいう場で私も撮りたいって思います。あとCYKで撮ってるときはすごい自由があるんですよ、「マリザの好きなように撮って! 」みたいな。
ーそして写真が毎回いいから…! パーセルズのときも最高でした。
あれも楽しかったです! たぶんガールフイナムで初めて撮った企画でしたよね? やっぱりアーティストの写真を撮るときがいちばん楽しいかもしれないです。

私の好きな写真集。 1. Petra Collins 『OMG私は殺されています』 発売と同時に神保町のSUPER LABOで行った展示会で購入しました。ペトラ本人と少しお話もできました! 2. Christoph Oeschger 『They’ve Made Us Ghosts』写真はもちろん素敵だけど、レイアウト自体がおもしろくて見ていて飽きない一冊です! 3. Ola Rindal 『Notes on Ordinary Spaces』プレゼントで頂いた本だけど、平凡な風景と静けさの描写が美しくて気に入ってます。 4. Osma Harvilahti 『Ethiopia』赤い椅子と男性の背中の見開きのためにこの本を買ったと言ってもいいくらいあの見開きが好きです。 5. Francesca Allen 『Aya』このなかではいちばんパーソナルな写真集で、見てるとすごく暖かい気持ちになります。 6. Allied Forces Press 『ALF Annual Issue No.2』まだ写真を撮り始めて間もないときに声をかけて頂いて、年に一度出版されるアートブックに写真を数ページ載せてもらいました。彼らはサンフランシスコを拠点としたクリエイター達です。

ー服装を見る限りマリザちゃん自身はファッションも好きだと思うけど、ファッションシュートも興味ありますか?
興味はあるけど、いまやろうかなとかは言わない方がいいのかな…とか。もちろんやりたいですけど。
ーやるなら直球のファッション方面に振るんじゃなくて、バックグラウンドを引き立たせるというか。例えばペトラ・コリンズが〈グッチ(GUCCI)〉を撮ってもグッとくる感じは他のファッションフォトグラファーが撮るそれよりも、ペトラ自身がモデルやロケーションとか全部込みでディレクションするからこそなのかなみたいな。きっとそういう感覚でイメージしてる? と思ってたんですが…。
そうですね、人間性がちゃんと出て服だけじゃなくて、そのモデルも引き立たせたいです。ただ「初めまして、じゃあ撮りまーす」じゃなく、撮る人のこともできたら知りたい。なので時間かけて撮りたいかもしれないですね。撮るまでにちゃんとコンセプトも考えたいですし。どう自然に引き出せるか…。

友達と撮ったお気に入りの写真。

この見開きが好きなところです。色の組み合わせと背中の水滴と毛穴まで見えるディテールがたまんないです。

ーちなみにマリザちゃんがグッとくる写真って?
写真の構図ももちろん大事だけど一枚の写真のバックグラウンドが気になる写真ですかね、もっと知りたくなるような。きっとこういうことがあって、こうなったんだろうなと考えたくなるようなところを写し出せることが理想です。
ー素敵ですね。ではさっき登場したジャック・デイヴィスンはいまの自然体を切り取ることと対照にフィクション的な写真ですが、これらに共通する部分はありますか?
しっかりとイメージを作り込んでいたとしても冷たくは感じないんですよね。それって映画と似ているかもしれないですよね。映画も作り込んでいるけど自然に見えるというか。ジム・ジャームッシュの映画を例に出しても日常的な映画だけどやっぱり現実に起こったことじゃないですよね…うまく言えないけど。
ーそれはマリザちゃんの写真からも感じる部分かもです。見ていて私も「あ、わかる! 」と思う日常のちょっとしたことでキュンとする感じ。
確かに…。毎日のなかで目に入るものが、そのジャームッシュの映画で切り取られてるシーンとリンクしてるときがあるかも。それって私も普段から気になる風景だったりするのかもしれないということですよね?
ーですね! だからこそマリザちゃんがどう写真と向き合っているのか気になりました。リアルな瞬間を撮るとしても写真って一枚から推測できないいろんな要素を含むことができますよね? 写真のおもしろいところってどこにあると思いますか?
いろんな要素がありますよね。写真ってその場で出会った偶然を利用して「撮る」ことができますし、逆に最初からイメージを想像し、そこに近づけて写真を「作る」こともできますよね。私は結構その中間のどこかにいるような気がする。写真にしたいモノって偶然見つけることが多いけど、見つけたらそこからイメージを想像して作りあげていきます。でもこうやってイメージができるまでの過程って人それぞれで、自分に合った写真との向き合い方があると思う。そういう面では写真ってすごくパーソナルでおもしろいなって感じます。

さりげなくガールフイナムのステッカーが❤︎

作業は主に自分の部屋でしています。

ーちなみにフィルムやiPhone、カメラはこだわっているんですか?
それぞれの良さがあるからそのときに合うものを使いますね。iPhoneでも全然いい写真は撮れますし。
ーさっきすれ違ったんだろうなと思わせる風景写真も、マリザちゃんは日常生活の感覚でさっとiPhoneで撮っているのかもしれないけどそれ自体も作品のような深みがあって。カメラが違ってもらしさが出るのは、決まった視点があるからなんですかね?
そう言ってもらえるとうれしいです! 普段から自分らしさってなんだろうとは思うけど、最近は周りからも「マリザちゃんぽい! 」と言われるようになったんです。たぶん決めてないことがいいのかもしれないですね。自分らしさはこれだ! という型にはめずに。それが自分らしさになってるのかな…。例えば「私はファッションフォトグラファー! 」「私はイベントフォトグラファー! 」とかも型のひとつで、そう捉えずにいろいろ混ぜていきたいというか。
ー一方でこういうのは撮りたくないとかはありますか?
撮りたくない写真…。バチバチに広告って感じの写真は撮りたくないですかね。でも学校は広告系なんですが(笑)。だからこそペトラみたいな広告を作れる人になりたいです。
ーペトラも表現こそ変化しているけど、一貫して“ペトラらしい”部分はずっとあるところがすごいですよね。
すぐわかりますしね! 最近びっくりしたのが、マツキヨに売ってるマスカラの広告だと思うんですがそれをよく見たらペトラの写真だったんですよ! マツキヨとペトラ…すごいミスマッチな感じもするけど。でもやっぱり自分らしさを感じられてかっこいい。私もそういう仕事ができるようになりたいです!
ー仕事やプロジェクトの大小問わず自分らしさが出せるようなフォトグラファーになってほしい…応援してます! じゃあ最後にこれからやりたいことはありますか?
近いうちならZINEは作りたいなって思ってます。本当に実現してやりたいことはネパールに行って写真を撮ることだけど、それはもう完全にこの状況だから…。自然から出る色がすごくきれいで! 実はこれもお母さん情報(笑)。でも、最終的にはビッグネームとの仕事だとしても自由のきく写真を撮れるようになりたい! ヴォルフガング・ティルマンスくらいまでいけば、やりたいことも全部できるというか、お金の制限もないしやりたいことを自由にできるはずですよね。

自分のことは自分で紹介! 須田マリザについてのライナーノーツ。

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