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あなたの知らない青春映画の世界。〈前編〉
あなたの知らない青春映画の世界。〈前編〉

TEEN FILM FOREVER!

あなたの知らない青春映画の世界。〈前編〉

2018.08.07

夏に観たくなる映画と言えば青春映画。
毎日溶けるような暑さが続く今年の夏は家にこもって、
とことん青春映画を楽しもうじゃありませんか!
ただ観るだけというのももったいないので、
鑑賞前にチェックすべき青春映画のあれやこれやを
映画団体グッチーズ・フリースクールの代表である降矢 聡さんにお伺いしました。
前編では、青春映画の魅力がたっぷり詰まったインタビューをお届け。
これを読めば、青春映画がいまの100倍楽しくなること間違いなし!

グッチーズ・フリースクールとは?

日本未公開映画を自主的に買いつけ、上映や配給を行う映画団体。独自の視点で選ばれた作品は上映会をするたびに話題に。なかでも毎回特に好評なのが青春映画で、代表の降矢 聡さん自身も大の青春映画好き。
gucchis-free-school.com

青春映画を盛り上げたいなって気持ちはあります。

ー青春映画の話を聞くならグッチーズ・フリースクールさんだなと思って。
ありがとうございます。そんなに大きな団体でもないから、知っていただけて嬉しいです。
ー1年ほど前に観た青春映画『アメリカン・スリープオーバー』がすごく良くて。配給したのは一体どこだ!? とすぐに調べました(笑)。この作品のように日本で未公開だった作品の上映会をしたり、配給したりといった活動はいつ頃からされていたんですか?
今年で活動は5年目です。『アメリカン・スリープオーバー』を初めて上映したのが2013年なんですけど、それをきっかけに団体として活動を始めました。でも、実はその前から日本未公開の作品を紹介する目的でいまあるWEBサイトは作っていたんです。日常的に海外からDVDを取り寄せたり、ネットの配信サービスで観たりしていたので、観てるだけというのももったいないから紹介しようと思って始めたのがきっかけです。
ー初上映はそんなに前だったんですね! 他にも日本で未公開だった映画をたくさん配給されていますよね。リチャード・リンクレイター監督の初期作品『スラッカー』も観ました。
本当ですか!? ありがとうございます。よくもあんな変な作品を(笑)。
ーいや、おもしろかったですよ! でも、正直なところ万人受けする作品ではないかなとは思たのですが(笑)、上映する映画や配給する映画はどうやって決めているんですか?
上映会に関しては、意外と集客できるものなんですよね。期間も短いというのもあって。だから、結構好きな作品を選んでいて、よっぽどじゃない限り「人が集まらなさそうだな」みたいな理由でやめることはないかなぁ。ただ、配給となるとまた話は別で、上映会をしたなかで反応が良かったものを選んでいます。ありがたいことに上映会で観た人が話題にしてくれて、各地の映画館さんや映画祭でうちでもやりたいって声を掛けてくださることも多くて。それと配給作品の場合は、せっかく配給するのだから、ただその映画1本が「おもしろかったね」で終わらないような、様々な広がりが感じられる作品を選びたいと思っています。

『アメリカン・スリープオーバー』

『スラッカー』

ーこれまでグッチーズさんが上映、配給されたものを振り返ると、青春映画が多いですよね。それは何か理由があって?
自分で振り返ってみても多いなと思います(笑)。もちろん好きなジャンルなので自然とそうなったのかもしれないけど、別に意識はしてなかったんですよね。ただ、作品を決めるときに考えることがあって。考えるというか…ちょっと想像するんですよね、上映後のお客さんの感じを。この作品を観終わった後のその場の空気感や雰囲気ってどうなるかなって。そしたら、青春映画がちょうどいいと思ったんですよ。なんか抽象的で申し訳ないんですけど(笑)。
ーおっしゃってることはなんとなくわかります(笑)。
でしょ? 例えば、大人のラブストーリーのしっとりした感じとか、SFやサスペンスの難しくて考えさせられる感じとか、もちろんそれぞれの良さはあると思うんです。でも、いままでのグッチーズの上映会では青春映画のなんとも言えない高揚感とか爽やかさとか、そういうのが欲しくて。
ーまさに『アメリカン・スリープオーバー』がそうでした!
そう思ってもらえてよかったです。それから、これは後から出てきたものではあるんですが、やっぱり青春映画というジャンルを盛り上げたいなって気持ちはありますね。というのも、そもそも青春映画ってお客が入らないって言われているんですよ。例えば、アメリカの作品だったら、向こうの文化が強すぎて、しかもティーンの文化ってより強く出ますよね。それが日本だとわからないことや馴染みがないことが多くて、あんまり受けがよくないって言われたことがあります。
ー確かに、いわゆるアメリカのスクールカーストやプロムなんかもそうですね。
それに、僕らが扱っているのはインディペンデントの映画だから余計。みんなが知ってるような人気俳優も出てこないし。だから、敬遠されるジャンルではあるんですけど、自分がいいと思った作品は積極的に扱っていきたいなと思っています。
ーそういえば、以前に青春映画学園祭というのもやられてましたね。
そうですね、日本で未公開の青春映画ばかりを集めて上映会をしました。そのときには山崎まどかさんにトークショーをお願いしたりもしましたね。

『アメリカン・グラフィティ』(C) 1973 Universal Studios. All Rights Reserved.

『アメリカン・グラフィティ』の存在は大きいですね。

ーお話を聞いていると、やはり青春映画には人一倍思い入れがあるように感じるんですが、それは昔からなんですか?
個人的に青春映画というものを初めて意識した作品は『アメリカン・パイ』でした。中学生のときで99年だったかな。まぁ、これがとんでもない作品で(笑)。ちょっと衝撃で。でも、もちろんおもしろかったので、それからは過去のものを遡って観たり、山崎まどかさんや長谷川町蔵さんなど青春映画について他の方たちが書かれているものを読んだりしましたね。
ー過去に遡っていくと、青春映画の始まりと言われるような作品ってあるものなんですか? なんとなく、映画の黎明期からあるジャンルではないように思うのですが。
これだって断言できるわけではないんですが、始まりは『暴力教室』やジェームズ・ディーンの代表作である『理由なき反抗』と言われてます。
ー50年代の作品ですよね? 思ったよりも前からありますね!
はい、どちらも55年です。これが当時すごいヒットしたらしいんですよ。それで、映画を作るうえでそれまでは想定していなかった若者がターゲットになり得るっていうのを見出したという。
ーそこからは青春映画がたくさん作られ始めたと考えてもいい?
そうですね。エルヴィス・プレスリーが出演しているロック映画だったり、夏休みにビーチに行って男女の交流を描くっていうビーチ映画だったりが作られて。50年代から60年代に若者をダーゲットとした作品がどんどん出てくるんです。この頃に青春映画の下地ができたと言ってもいいかな。そして、70年代に入って『アメリカン・グラフィティ』が作られるんですけど、やっぱりこの作品の存在は大きいですね。

『アメリカン・グラフィティ』

舞台は1962年カリフォルニア北部の小さな街。高校を卒業し、翌日の朝には街を去ることになっているカートとスティーヴ、彼らの友だちが過ごすひと晩を綴った群像劇。

Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税 発売中
発売・販売元 :NBCユニバーサル・エンターテイメント
ー当時は日本でもすごくブームになったとか。挿入歌もポップスがたくさん使われていて、いま私たちが観てもその時代の空気感とかすごく伝わってきます。
そうですよね。その時代を象徴するポップスと合わせて若者の青春時代を描く作品っていうのはいまではよくあるものなんですが、その火付け役はこの作品かもしれません。ちなみに、『アメリカン・グラフィティ』は60年代の話で“ロック・アラウンド・ザ・クロック”という曲で始まるんですが、この曲はさっき話した『暴力教室』のテーマソングで、当時すごく流行ったんですよ。そこも意識してるのかなと思うと興味深いですね。
ー『アメリカン・グラフィティ』はジョージ・ルーカスが監督なんですよね。いまでは『スター・ウォーズ』シリーズのイメージが強いから、なんか意外というか。
確かにそうかもしれないですね。それで言うと、ちょっとおもしろいなと思うことがあって。ジョージ・ルーカスってこれが2作目で、前作ではSF映画を撮って大コケしたらしいんですよ。
ーあ、やっぱり1作目はSFなんですね(笑)。
そう。でも全然ヒットしなくて、これはまずいな、なんとかしてヒット作を作らなきゃなってことで撮ったのが『アメリカン・グラフィティ』。つまり、これまではずっと観客として若者は想定されてなかったというのに、失敗した監督が再起をかけて作ろうと思ったのが、若者をターゲットにした作品だったという。
ーそれで実際に大ヒットしたわけですから、やっぱりそういう意味でもこの作品は青春映画を語るうえではキーになってますね。その後はどうなっていくんですか?
結構、多様化していきます。『アメリカン・グラフィティ』のような群像劇以外にも、ホラー要素やコメディ要素がある作品が出てきますね。そして、この時期にはショッピングモールに映画館が併設されるようになってきます。若者の遊び場所に映画館というものが現れるんですね。そういった環境の変化もこの先、青春映画が盛り上がっていく大きな要因かと思います。『初体験/リッジモンド・ハイ』の舞台はまさにショッピングモールですしね。そのような状況の80年代になってジョン・ヒューズの作品がヒットするという流れです。

『ブレックファスト・クラブ』(C) 1985 Universal Studios. All Rights Reserved.

常にフレッシュな魅力が映ってるんです。

ー学園ものが出てくるんですね!
そうですね。ジョン・ヒューズが監督、脚本した作品で後々語り継がれる定型的なプロットができたんです。スクールカーストがあったり、最終的にあるプロムに向かってどういい感じにもっていくかとか。80年代にはいまある学園青春映画の形がほぼできあがったように感じます。
ージョン・ヒューズは『ブレックファスト・クラブ』で知りました。
彼の作品の中ではいちばん有名ですよね。僕も大好きなんですけど、この作品は本当におもしろくて! ジョン・ヒューズはこれが2作目なんですけど、1作目で作りあげたプロットをもう分解してるんですよ。『ブレックファスト・クラブ』はスクールカーストのいろんなところに属してる生徒が休日に課題をするために同じ教室に集められる話。だから、なんていうか図解みたいになってるというか。自分で一度作りあげたものを明晰に解剖して、ほらこういうふうになってるでしょって見せてる感じがある。やっぱ、この人はすごいですよ。

『ブレックファスト・クラブ』

休日登校を命じられた全く接点のない5人の高校生が、それぞれに違う境遇にいる者に対して少しずつ理解し心を通わせていく過程を描いた学園ドラマ。

Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税
発売・販売元 :NBCユニバーサル・エンターテイメント
ー他に青春映画を語るうえで外せない人物っていますか? もちろん、たくさんいると思うんですけど…降矢さんが個人的に好きな人を教えていただけますか?
リチャード・リンクレイター監督は外せないですね。『バッド・チューニング』は要チェック作品です。女優でいうと、僕が青春映画にハマってたくさん観ていたときに注目してたのはリンジー・ローハンです。『ミーン・ガールズ』という学園映画に出ているんですけど、それが本当にかわいくて(笑)。この作品はジョン・ヒューズの作品からアップデートされたものと言われることもありますね。あと、ゾーイ・ドゥイッチ。彼女も『ヴァンパイア・アカデミー』や『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』という青春映画に出てるんですが、なんと父親がジョン・ヒューズと一緒に青春映画を監督してたハワード・ドゥイッチなんです。娘が父の血を受け継いでるなって。
ーそれはおもしろいですね。降矢さんがそこまで青春映画にハマって多くの作品を観てきた理由ってなんでしょうか? 青春映画の魅力って?
青春映画は新しい人が圧倒的に多いんです。俳優はもちろんフレッシュな人が出るものだし、監督もたぶんキャリアを積むうえで最初のほうに任されることが多いのかな。だから、これまでにはない新しいものが観られるというのが魅力のひとつ。過去の作品を振り返ってみても、この俳優がこんな映画に出てたんだ! という発見もありますし。
ーそれはありますね! さっきおっしゃってた『バッドチューニング』にベン・アフレックが出てて、バットでお尻を叩くためだけに下級生を追いかけまわすというバカなことをやっててびっくりしました(笑)。ミラ・ジョヴォヴィッチもちょい役で出てましたし。
そうそう。個人的に好きなのは『恋のから騒ぎ』に出ていたヒース・レジャーですかね。“君の瞳に恋してる”を踊りつきで歌うという(笑)。いまからすると考えられない!
ーですよね、あの『ダークナイト』の悪役ジョーカーが!? みたいな(笑)。
そういうフレッシュな魅力が常にあるので、もちろん変わらないものもあるけど、ずっと変わり続けてるなって感じ。あと、それに関連するのですが、青春時代って期間がある程度決まってるじゃないですか。そうすると、役者の演じられる期間ももちろん限定されますよね。だから、そのときしか撮れない俳優の魅力が映っているんです。そのあとはキャリアを積んでいろんな作品に出られると思うんですけど、青春映画だけはある時期しか出れないから。しかも、まだ完成されていない危うい身体というか、感情表現というか、そういったものが結構映ってるはずで。観ているとたまに感じられますね。

『待ちきれなくて…』©1998 GLOBAL ENTERTAINMENT PRODUCTIONS GMBH & CO. FILM KG AND SPE GERMAN FINANCE CO. INC. ALL RIGHTS RESERVED.

大人が観ても改めて感じることってあるんですよね。

ーなるほど、そうやって観るとまた違った楽しみ方ができそうです! 物語自体の魅力はどうでしょうか? 若者の話を大人になった私たちが観て感じられることって少なからずあるかなとは思うんですが。
僕が観ていてぐっと来ることがあって。『待ちきれなくて…』の話がわかりやすいんですけど。群像劇でそのなかにクラスのマドンナ的な女の子に告白しようとしている冴えない男の子がいるんですね。意を決して卒業パーティに乗り込むんですけど、結局タイミングを失って告白できないままパーティを抜け出しちゃう。で、近くの公衆電話に入っているときに、天使の格好をした30〜40代くらいの女の人が歩いてくるんです。
ー天使の格好(笑)?
ふざけてるでしょ? まぁ、これはダンサーの衣装らしいんですけど、その天使の女性が「ちょっと電話貸しなさいよ、あんたのなんか大した用じゃないんだから」って言うんです。「私はすごく嫌なことがあって、帰るのにタクシーを呼ぶから貸しなさいよ。もう最低な1日だったんだから」って。そしたら、男の子のほうも「いやいや、こっちのほうが最低な1日だったんだ」って言い返して。
ーなんか不幸の言い合いみたいになるんですね(笑)。
この男の子と大人女性との対比がすごくおもしろくて。ここではあのときこうしていれば、こういう選択をしていれば、もしかしたらいまの人生は変わっていたかもしれない、みたいなことが描かれているんですね。それで、僕たちはこのふざけた格好をした女性側の人間だという捉え方ができるんです。つまり、いろいろ選択し終わって、いろんな可能性があったのに、それを潰してきてしまった大人側。その大人側にいる天使の女性がお互いの話を聞き合ったあとに「あんたはもう一回パーティに行きなさいよ」って言うんですよ。セカンドチャンスに賭けなさいって。このままだと後悔しちゃうからって。
ーおぉ、なんかぐっと来ますね。
ここは本当にいいシーンなんで、ぜひ観てください! で、結局何が言いたいかというと、青春映画で描かれているのは青春期だけの問題じゃないというか。もちろんこういう映画を観て感化されて「よし、自分もこれからは後悔しないように生きよう」みたいなことは難しいんですけど、もっと本当はいろんな可能性があること、それを知らず知らずのうちに潰してしまっていたことっていうのを改めて教えてくれるんですよね。青春映画ってそういう側面があるなと。大人になった僕たちが観るときにそういうことを感じられるとぐっと来るし、物語としての魅力のひとつだと思います。

『待ちきれなくて…』

クラスメイトの家で開かれることになった卒業パーティに集まる若者たちの群像劇。初体験を狙う男の子や復讐に燃えるいじめられっ子など、それぞれの思惑を抱えてパーティに参加する。

発売中
DVD 1,410円+税
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©1998 GLOBAL ENTERTAINMENT PRODUCTIONS GMBH & CO. FILM KG AND SPE GERMAN FINANCE CO. INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『レディ・バード』 Merie Wallance, courtesy of A24

これまでよりも大人たちとの関係の描き方が複雑になってきている気がします。

ーいまおっしゃったことって、青春映画の大テーマみたいなもので昔から変わらないし、きっとこれからも変わらないものだろうなと思うんですけど、逆に過去の作品と最近の作品を比べて変わってきたと感じることはありますか?
基本的には変わらないと思うんですよね、根底にあるものは。やっぱり青春映画はある可能性が秘められている子たちの話であったり、ありのままの自分を肯定する話だったりするんです。あとは、自分の住んでる街やうざったい親など、いまある環境から抜け出したいけど抜け出せないっていう不満や反発が描かれていて。でも、ちょっと変わってきてるなと思う部分もあります。最近でいうと『レディ・バード』という作品があるんですけど、観ましたか?
ー観ました! 監督がグレタ・ガーウィグだったので。
確かに、彼女は若手女性作家として注目すべき人ですよね。この話はサクラメントという自分が住んでいる街から出たがっている女の子の話で。だから、さっき言ったみたいなことはもちろん描かれているんですけど、ご覧になって何が印象に残ってます?
ーうーん、いろいろありますが、話の冒頭でクルマの中で母親と言い合ってるシーンはびっくりしました。クルマが走ってる途中にも関わらず、主人公がイラっとしていきなりドアを開けて飛び降りるという。えー! って感じで笑っちゃいました(笑)。
あれは印象的ですね(笑)。他にも主人公と母親との関係が結構描かれていると思いませんでした?
ー確かに、物語を通してずっと2人の間にわだかまりがあるような感じでした。
ですよね。主人公と親や周りの大人たちとの関係っていうのは、これまでは主人公の不満は親たちにありますよという意味づけ、動機づけくらいで割とさらっと描かれていたんですけど、最近はもうちょっと複雑というか。その親との距離感をどう回復するか、もしくは回復はできなくともどう保っていくか、みたいなことが主眼に置かれている気がしています。だから、これまでの作品のように個として強く生きようとか、この街から離れて解決というエンディングではなくて。映画が終わっても続くであろう親との関係をどうするんだろうなってことを意識させる作品が多くなってきている気はします。

『タイニー・ファニチャー』

親密であるがゆえに、残酷で生々しい物語が生まれるということも。

ー娘と母親との関係を描いた作品でいうと、もうすぐ公開される『タイニー・ファニチャー』もそうですよね? しかも、この監督であるレナ・ダナムも女性ですし。
そうですね、彼女も人気ドラマ『GIRLS/ガールズ』で注目されている若手作家です。『タイニー・ファニチャー』はそれよりも前に撮られた作品で、前からずっと日本で配給したいなと思っていて、ようやく実現しました。
ー試写会で観させていただいたんですけど、こちらもなかなか複雑な親子関係だったなぁと思います。
しかも、これ、本当の家族なんですよ(笑)。
ーえ、そうなんですか!?
はい、母親も妹も。舞台になってる家も本当に彼女たちが住んでいる家だそうです。だから、よりダイレクトに描かれていて。どんな気持ちで演じているんだろうって思ったりしたんですけどね。とにかく、友情や恋愛というのよりも親との関係というのが強く出ていておもしろい作品です。
ーいま出てきた2人はどちらも女性で、若手の作家さんですよね。どこか共通していることがありそうですね。
どちらもインディペンデントの作家あがりなんで出自は似ているかなと思います。仲間うちで撮ってて、映画界に出てきた人たちなので。それを踏まえて青春映画に関して言えることがあって。青春映画はまず若者がターゲットとして見出され、それがヒットするとわかって、たくさん作られてきたという話をしましたよね。それはある意味、マーケティングというか作られたもののなかでの青春の描かれ方だったと考えることもできて。でも、この2人はインディペンデントの作家で、どこにも縛られず、より自由な形で自分のパーソナルな部分を描いているんです。もっと小さくて親密な関係性。親密であるがゆえに残酷であったり、より生々しい物語が出てくると思うんですけど。そうなったときのいちばんの問題って、やっぱり肉親だったんだなと。だから、彼女たちが語るものというのはこれまでにはなかった新しさでもあるかなと思います。
ーそれは彼女たち以外の最近の監督にも言えることだったりしますか?
そうですね。もちろん、まだまだジョン・ヒューズが作ったプロットを継承している作品はたくさんあるし、なんだか毎回同じような話だよねって思ったりもするんですけど、でも、そのなかにも実は変わってる部分、新しい部分もあるんですよね。『ブレックファスト・クラブ』の有名なセリフで「大人になったら心が死ぬんだ」というのがあるんですが、そういうことを伝えてきた『ブレックファスト・クラブ』以後の青春映画を観て育った世代がいま監督になって青春を撮っている、というのも関係している気がします。
ーなるほど、これから出てくる青春映画にも注目していきたいなって思いました。
そうやって興味を持ってくれる人が増えて、青春映画というジャンルがもっと盛り上がっていくと嬉しいですね。
ーグッチーズさんの今後の活動も楽しみにしています! あと、個人的には『スラッカー』のソフト化を期待しています(笑)。
『スラッカー』に限らず、僕らみたいな小さな団体が海外の配給会社や制作会社と直接コンタクトを取って、公開に結びつけたり、ソフト化したりするのってどうしても時間がかかってしまうんですよね。『アメリカン・スリープオーバー』も初上映から5年経ってようやくソフト化できたくらいなので。だけど、これもクラウドファンディングでソフト化が実現していて、そもそもロードショーできたのもいろんな映画館さんが声を掛けてくださったからというのもあります。そうやってみなさんのお力を借りながら、地道にスローペースではありますが頑張っていきたいと思います。

INFORMATION

『タイニー・ファニチャー』

海外ドラマ『GIRLS/ガールズ』の大ヒットや、ファッション誌『VOGUE』の表紙を飾るなど注目を集めるレナ・ダナムの長編劇場デビュー作。彼女はこの作品で2010年にわずか24歳でSXSW映画祭でグランプリに輝き、インディペンデント・スピリット・アワードでは最優秀初脚本賞にも選ばれ、次世代を担う映画監督・脚本家として彼女の名を一躍世界にしらしめました。「職なし、夢なし、居場所なし」。そんな主人公をレナ・ダナム本人が演じ、自伝的要素が色濃く反映されています。 2018年8月11日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー。

イメージ・フォーラム
東京都渋谷区渋谷2-10-2
www.imageforum.co.jp

出町座
京都府京都市上京区三芳町133
demachiza.com

第七藝術劇場
大阪市淀川区十三本町 1-7-27
www.nanagei.com

PROFILE

降矢 聡

早稲田大学芸術学校の非常勤講師を経て、現在、映画配給やイベント上映を行うグッチーズ・フリースクール主催。共著に『映画を撮った35の言葉たち』、『映画監督、北野武。』(ともにフィルムアート社)、『映画空間400選』(INAX出版)など。そのほか、映画雑誌などに映画評を執筆。